第3話「幼馴染同盟」

 話が一旦ひと段落ついて、俺達は残っていた料理を食べたり、少なくなっていた飲み物を注ぎにいったりしていた。

 そこでふと、先ほどは彩華ばかりの話になってしまったので、彩華は俺に何か聞きたいことがないのかなと思ってしまったので、聞いてみることにした。

「そういえば、彩華は俺にあの時のことで何か聞きたいことはないのか?」

「ううん。今は大丈夫。それに私はもう前を向けてる」

「そっか。彩華は強いんだな」

「ううん、弱いよ。弱いけど、弱い自分を受け入れて、うまく向き合えてるだけ」

「そっか。辛くなったらちゃんと言えよ」

「えー…、紘は頼りないからなあ…」

「大丈夫だって!あれから色々と強くなったし!」

「ほんと?じゃあ一つだけお願いしようかな…」

「お、まじ?何々?」

 彩華は少しだけ俯いて何か考えているのか、少し黙ってしまう。俺はその間に先ほど取り分けておいてまだ皿に残っていたシーザーサラダを頬張る。

「あのね…実は…」

 彩華は俯きながらもじもじしている。ああ…なんとなく察してしまった。彩華ももしかしてそうなのか。俺は中学校時代から幾度と見たこの光景に覚えがあった。そう、こういうやつは大抵『大野君との仲を取り持って欲しいの』みたいなことを言うのだ。なので、多分この感じ彩華も例外ではないと感じた。

「大野君のことが気になってて…。紘、大野君と今日見た感じ仲良さそうだったし、その、大野君と仲良くなるの手伝ってくれない…?」

 彩華は俯きながらそう言ってきた。ああ、やっぱり彩華もそうだったか。こういう雰囲気の時、大抵俺と喋ってる女の子は博のことが気になってるだか、好きだかのどっちかなのだ。んで、一番仲の良さそうな俺に手伝ってくれという。ああもううんざりだ。これで一体何十人目だろうか。最初の数人の頃は親切心から手伝っていたけど、それを聞いた女子が群がって来てからはもう嫌になってのもあるし、一時期そっちの対応をしていて野球の練習に時間が割けないことが増え始めたことからも手伝うことを辞めた。そして最近になって少し落ち着いてきたと思ったら今度は彩華、よりにもよってお前なのか…。

 でも、彩華は幼馴染だし、昔から色々と助けてもらってたってのもあるし色々恩があるからなあ…。それに同じクラスだから動きやすいのもあるし、最近請け負ってなかったから丁度いいしなあ…。そうだ、どうせやるなら一つ提案してみるか。

「わかった。手伝ってもいい」

「ほんと!?」

 彩華の顔が驚きと嬉しさでいっぱいになってるのがわかる。ああ、この反応の女の子を見るのも懐かしいな…。少し懐かしさも感じながら俺は冷静に答える。

「ああ。でも一つだけ条件がある」

「条件?」

「俺、実は気になる人がいてな」

「お、誰々!?紘からそういう浮いた話聞いたことなかったからちょっとびっくり!」

「まあ、そういう話するような年頃でもなかったしなあ…」

「そう言われればそうだけど…。で、誰なの?」

 彩華の目はすごく輝いていて、興味津々といった感じに映った。ってか、逆にそんなにグイグイ来られると言いづらいんだけどなあ…。とか思いながらちょっとだけタメを作って少し照れながら彩華と目を合わせる。

「同じクラスの柏木さんだ」

「え、茜!?」

 俺が柏木さんの名前を出すと、すごく驚いた様子を見せる。ってかさっき彩華、柏木さんのこと茜って下の名前で呼ばなかったか…?気のせいじゃないよな…?

 そう思っていると彩華は、目を輝かせて机に手を置き前屈みに俺を覗いてくる。

「紘は茜のことが好きなのね!?」

「い、いや、気になってるだけで好きとは一言も…」

「茜のどこに惹かれたの?」

「え、あーそれはだなあ…」

 俺は彩華の勢いに押されて、去年の出来事を色々と彩華に話した。途中から彩華は身を乗り出すことを辞め、椅子にどっかりと座り、俺の話に相槌を打ちながら静かに話を聞いてくれた。

 そして全てを言い終わると、彩華は何度かうなずく。

「わかる。わかるわ…茜可愛いもんね…。特に去年の文化祭のあれを見ちゃったらそら惚れるのもわかるよ。うんうん」

「いやだから気になってるだけで」

「わかってるって。まだ好きか友達かの間ってところでしょ?感情的に」

「そうそうそれそれ。まだ話したこともないから、気になってるだけ」

「わかるわよ。私もそうだし」

「え、そうなの?」

「そうよ」

 彩華は真顔で俺の目をしっかり見ながらそういってきたので、これは本当のことなのだろうと思った。

 ここでふと疑問に思ったことを彩華に聞いてみることにする。

「そういや、彩華の方はなんで博のこと気になり始めたんだ?」

「あーそれはねえ、去年の野球部の秋季大会にまで遡るわ」

 彩華はそう言うとちょっと視線を明後日の方向へと反らした。多分当時の記憶を呼び起こしているんだろうなと思った。

「私ね、たまたま休日だったあの日、うちの高校がその日試合なの覚えてて、試合会場の近くを通ったから見に行こうと思って球場に行ったのね。元々、その時は大野君が目当てとかじゃなくて普通に母校の応援のつもりで行ったの。で、空いてる席に座って試合を見てたんだけど…。そしたらね、その試合で投げては9回2失点完投奪三振8、四死球2の完璧と言っていいピッチングに加え、打っては4打数3安打3打点の猛打賞という大車輪の活躍をしていた大野君がかっこよくてかっこよくて…。そこから気になり始めたんだけど、クラスも遠かったし、学校生活ではすれ違う機会もないし、見れるのは野球部の試合の時だけって感じで、半年間声もかけられずに今日まで過ごしてきたわけ」

 まあ、大方の予想通り博の野球してる姿がかっこいいって感じだったか。中学校の時も大半の女の子が博の野球姿がかっこいいとか言ってたっけか。なんか、彩華の話を聞いてると違う人なのに懐かしさを感じる。

「なるほどね。で、俺の出番ってわけだ」

「そう!去年、実は茜が大野君と違うクラスだったんだけど、文化祭の実行委員で同じだったから、うまく話す機会設けてくれないかってお願いしたら、そこまで仲良くなってないから難しいって茜に断られちゃったことがあってね。だから大野君と仲が良さそうだった紘にお願いしたいの!お願い!」

「一個確認したいんだけど、彩華は柏木さんと仲良いの?」

「もっちろん!私、昔ピアノ教室に通ってたじゃん?元々はその時の知り合いなんだけど、去年同じクラスで再会して話すようになってからは、もう親友と言っても過言ではないね!」

 彩華は自慢げに胸を張ると、制服越しに少しだけ膨らんだ胸が強調される。少しだけそっちに気を取られたが、すぐに視線を彩華の顔に戻す。

「なるほどね。じゃあ、好都合だよ」

「っというと?」

「さっき言ってた条件なんだけど、俺も彩華に柏木さんと仲良くなるのを手伝ってほしいって言うつもりだったんだよね」

「ふーん。なるほどね。つまり俺も手伝うから、私にも手伝ってほしいと」

「そゆこと。飲み込みが早くて助かる」

「おっけー!そんなん全然おっけーだよ!」

「じゃあ交渉成立ってことで」

 俺はそういうと、さっきとは逆に俺から手を差し出す。彩華は無言でそれに応え、俺の手とがっちり握手をした。

「今考えたんだけど、この契約を私達の関係にちなんで『幼馴染同盟』って名付けるのはどうかな?」

 彩華は手を握ったまま、そう俺に提案してきた。正直俺はネーミングセンスがちょっと微妙だなと思いつつも、別に異論はなかったので承諾することにした。

「おっけ。じゃあ俺達は今から幼馴染同盟だ」

「うん!改めてよろしくね紘!」

「おう、よろしくな彩華」

 二人の手にもう一度力が入り、がっちりと握手をし直した。

 そしてここに、二人のお互いの恋を助け合い、応援する『幼馴染同盟』が誕生した。

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