ハロウィンからの贈り物

琉葵-るい-

ハロウィンからの贈り物

(なに、この状況...)

目の前の光景に私はただただ唖然とした。

既にパーティー会場の教室は仮装した人達であふれ返っていた。

伯爵、ミイラ、着ぐるみ、コスプレ、種類を上げたら切りがない。


10月31日、ハロウィン。

一部での盛り上がりが、ここ数年で一気にハロウィンを祝うようになった。

そして、私が住む街も数年前から町内会がハロウィンパーティーを始めた。

にぎやかな場所が嫌いな私は行く気なんてなかったが、今年に限っては友人たちに強引に連れて来られた。

おまけに大っ嫌いな仮装までして。ちなみに黒いロングドレスの魔女の格好。

これですら派手と感じるのに、何故こんなのを着て楽しむのか私には分からない。

そんな、友人たちは他の参加者と騒いでいる。


(帰ろう...)

今、会場を出ても誰も気づかないだろう。

私は、そっと会場を抜け出し出口へ向かう。

その途中、ふと空き教室に目を向けると1人窓から眺めている青年が目に留まった。

私よりも大人びた雰囲気のどこにでもいる青年のようだ。

(きっと、私と同じようにパーティーに疲れて出てきた人だろうな。でもなんでだろう、何となく気になる)

私は帰るということを忘れ、青年がいる教室へと足を進め、少し離れて同じように外を眺める。

チラッと横に視線を送るが青年は全く気付いていないようだ。

(どこにでもいる青年なのに、なんか消えてしまいそうな感じがする...それになんか心地がいい)

外を眺めながら私はそう思った。


「貴女も会場から抜け出してきたんですか?」

ようやく人の気配に気づいたのか青年は私に声を掛けてきた。

「ええ、にぎやかなところが苦手なのに友人に連れて来られて」

「そうだったんですか。僕も同じです、人が多い所は苦手なんですが、断り切れなくて。おまけに僕仮装とか好きじゃなくて」

「私もです、華やかな格好とか一体何が楽しいのか良くわからなくて」

「あはは、僕たち似てますね」

「ええ」

2人は頷きながら笑った。


(彼ともっと話したいな、すごい心地が良いし...それに...)

私は何を思ったのだろうか、初対面の人にこういうこというのはどうか

と考えたが体の方が従順だった。

「あの...似合ってますよ、その吸血鬼の格好」

「えっ」

青年は予想をしていないことを言われたのか、すっとんきょな声を上げたが、やわらかい笑みを浮かべながら。

「貴女の方こそ、魔女の格好素敵ですよ」

「あっ...ありがとうございます」

「もしよければ、まだ時間はありますか?もう少し貴女とお話しがしたいのですが」

「ええ、私もぜひお話ししたいです」


(たまには、こういうのも悪くないかもな)


外も中も相変わらずにぎやかな声が絶えないが、2人の間に流れる空気は穏やかな

ものだった。

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ハロウィンからの贈り物 琉葵-るい- @starsnow_0831

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