足柄山のクマが赤ちゃんを拾いました

森水鷲葉

足柄山のクマが赤ちゃんを拾いました

【クマ】

誰か、子育ての経験ある動物いない!?


【イノシシ】

どうした、いきなり


【クマ】

人間の赤ちゃんが山道に落ちてた

すごい大きな声で泣いてる!

どうしていいか、わかんないんだけど!


【イノシシ】

まあ、落ち着けよ

きっとお腹すいてるんだよ


【クマ】

そうか!

って、人間って何食べるの!?


【イノシシ】

そりゃあ、赤ちゃんだから……

おっぱい飲むんじゃないか


【クマ】

おっぱい!?

どうしよう、オイラ、おっぱい出ないよ!


【イノシシ】

落ち着けって


【ウサギ】

こういう時、人間は赤ちゃんを「高い高い」するみたいよ


【クマ】

なにそれ?


【ウサギ】

赤ちゃんを手で持って高く上げるの


【イノシシ】

クマなら手先が器用だし、できるんじゃないか?


【クマ】

そっか、よし!


たかいたかーい!


【イノシシ】

赤ちゃん抱っこしてチャットしてるのか?

ホントに器用だな!?


【クマ】

泣き止んだ!


【イノシシ】

おお、よかったな


【クマ】

でも……また泣き始めた!

わーん、どうしよう!


【ウサギ】

クマさんまで泣かないで

こういう時は、「もらい乳」よ!


【クマ】

なにそれ!?


【ウサギ】

おっぱいの出る別の動物にお乳をもらうのよ!


【クマ】

そうか、ウサギ賢い!


【イノシシ】

さすが昔話でよく主役になる動物


【ウサギ】

ふふ、まあね


【クマ】

ところで、おっぱい出る動物って誰?


【ウサギ】

あ……


【イノシシ】

そこまでは知らないのか


【ウサギ】

し、知ってるわよ

この間、ふもとの村に赤ちゃん連れの人間がいたような


【クマ】

そうか、よし! もらい乳に行ってくる!


【イノシシ】

おい、待て、人里に降りたら危ないだろ!


【クマ】

だって、赤ちゃん泣いてるんだよ。かわいそうじゃないか


【イノシシ】

そうかもしれないが……


【クマ】

あ、誰か来たみたいだ


【ウサギ】

もしかして、人間!?


【イノシシ】

隠れろ、クマ!


【クマ】

な、なんとか隠れられたよ


あの人間……女の人みたいだ

赤ちゃんにお乳あげてる


【イノシシ】


【クマ】

あ、女の人、こっちにおじぎしてる


「遊んでくれてありがとう」だって


【ナレーション】

数日後……


【クマ】

赤ちゃん、金太郎っていうんだって

お母さんが働いてる間、オイラが預かることになったんだ


「高い高い」が気にいったみたい

オイラの背中に乗って歩くのも好きなんだ


【イノシシ】

へえ、人間の赤ちゃんは変わってるなあ


【ウサギ】

大変、武器を持った人間が山を登ってくるよ!

狩人かも! クマさんも注意して!


【クマ】


こっちに、ごつい人間がくる!


目が合っちゃった……


【イノシシ】

クマー!


【クマ】

あ、ちょっと待って

人間のおじさん、金太郎のことで話があるんだって


「サムライとして見所がある」って言うんだよね


【ウサギ】

サムライ? 狩人じゃなかったんだ


【イノシシ】

「見所がある」ってどういうことだよ?


【クマ】

「クマにまたがり馬の稽古とは感心した」とか、なんとか……


「しかも、相撲で、クマを投げ飛ばすとは」とか


【イノシシ】

クマが金太郎を「高い高い」してただけじゃん!


【クマ】

人間のおじさん、「大きくなったらまた来る」って


金太郎、「そのうち、鬼にも勝てるんじゃないか」って、言われたよ


【イノシシ】

そんな、まだ赤ちゃんだぞ


【ウサギ】

気が早いよね


【クマ】

うん、でも、金太郎を褒めてもらってうれしかったよ


また背中に乗せてお散歩してくるね


【ナレーション】

その後、金太郎は坂田金時(さかたのきんとき)となり、

仲間とともに都を荒らす鬼、酒呑童子(しゅてんどうじ)を倒すのは別のお話……


【終わり】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

足柄山のクマが赤ちゃんを拾いました 森水鷲葉 @morimizushuba

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ