俺の手持ちには何もない③
一通りの作業が終わったクラスの雰囲気は一旦落ち着きを取り戻しホームルームへと速やかに移行した。そしてホームルームが終了次第クラスは騒がしいく元に戻った。おのおの教室を後にして新クラスへの教室へ足を向ける者、この教室を惜しむようにしながら少し友達と駄弁る者様々に分かれたが俺は前者の如く颯爽と表記されてあった通り新号館三階へ向かう。
一年、二年、三年と順に教室移動を開始しているが私立特有の人数が多いせいで先ほどのクラスどころではない騒がしさと人混みの渦に巻き込まれる。やっぱ人ごみの中に身を投じてしまうとなんか気持ち悪くなってしまう。
そして俺はやっとの思いで混雑ゾーンを抜け出し、旧号館から外へ出て新号館へ向かった。新号館は旧号館より空いていて人だかりはあるがかき分けて歩くような状態ではなかった。
難なく三階へ駆け上がり2-Bと表記された教室を見つけ中に入る。中にはすでに他クラスから来たのだろうか見慣れない生徒が何人かいて談笑していた。俺はそれをよそ眼に黒板に書かれていた新しい自分の席を探す。やはりといったところだろうか、当然というべきなのか席の位置は名前の順で配置されていた。俺の名前は窓際の列の前から三番目に記されている。そそくさと俺は自分の席へ着席してルーティーンかのように鞄から文庫本を取り出し読むふりを開始した。
そしてものの数十分、新クラスには徐々に生徒が入室してき始め活気づいていった。俺は入ってくる生徒をちらちらと横目で見守る。その中には同じクラスで顔だけは知っている人も何人かいた。その刹那、勢いよく教室へ入ってきた一人のポニーテールが特徴的な女子生徒が目に入った。
「いやあ!かなっちとまた同じクラスになれるなんて~!これはもはや運命?いや、、、宿命?それとも・・・愛の力?!?!」
その女子生徒は隣を歩いているだろう生徒に向かって何やら力説していた。だがその内容なんかはどうでもよかった。俺は読んだ振りをしていた文庫本を閉じとっさに机に突っ伏した。
見覚えのあるポニーテール女子。そして極めつけはかなっちというワード・・・。俺は額に滲む冷や汗を覆い隠すように伏せる。
「あ、奏海~!同じクラス!!!やったっ」「有村さんおはよ~」
―――――決定打だった。
奏海なんて珍しい名前は思い当たるに学校に当然一人しかいないだろう。まじかまじかまじかあああ。俺は自分の存在を悟られない様にステルス性能をフルに活かし身を隠した。黒板を見た際に気づいておけばよかったものの有村・宮野で名前の順的にマ反対だったので完全に見落としていた。
俺はより一層がやがやし始めたクラスに溶けて居なくなるかのように新担任の新塚が来るまで突っ伏しを貫いた。
「よーし。ホームルームやるぞ~」
聞き慣れた声とともに入場してきた新塚は新しく2-Bと表記されている名簿を片手に持ちそう告げた。俺はそれを合図に体を起こしバレない様にと少しばかり体をかがめ伏し目がちにしてからホームルームに臨んだ。
「づかちゃん先生とか最高じゃんね!」
ホームルームが始まるなりそう勢いよく発した一名の男子。それをいじるかのようにもう一人の男子が「いやあ、桜井の担任じゃあづかちゃんも可愛そうだよ・・・。」としゅんと演技を交えたような口調で諭す。するとクラスにはどっと笑いが起こった。
「ええええ?!?!ひどくね?!ひどくね?!ひどくね?!」
「桜井。ひどくねは一回だ」
「え?!何そのごめんは一回でいい的なの?!」
新塚と桜井という男子のやり取りでもう一度場が沸いた。
「えー。このクラスの担当になりました新塚紗世です。まあ知ってる人も多いと思うけど一年間よろしく頼む」
一通りの流れを終えた後はしれっとホームルームへ戻す。
だが俺はそんなことはよそに一列目に座っている有村を伺う。幸いにも位置関係的に有村から俺の位置は死角にあり当の本人は何やら友人と談笑しているようだった。
「これからこのクラスで一年を過ごしていくことになるが桜井の言っていた通り過ごすならやはり最高の環境がいいと先生も思う」
「ですよね!!!!!」
「座れ桜井」
「はい・・・。」
また軽くあしらわれた。なんかコントを鑑賞しているような気分だ。そしてまたひとしきり盛り上がったクラスが鎮まるのを見計らいまた口を開く。
「まあ、といってはなんだ。初日から席替えをしようと思う」
またまたクラスが盛り上がる。席替えという学生生活の中で小さくも大きなコンテンツにしきりに騒がしくなる・・・て待てよ。最悪だ。いずれかは俺の存在がばれるにしても万が一、万が一だ有村と隣の席なんかになったりしたら。
「づかちゃん先生マジ神!」「初日席替えは盛り上がるなあ」「うわーー。この席神だったのになあア」「一番前来たら死ぬわ」
クラス内は賛否両論飛び交ってるが本当に嫌そうにしている者はだれ一人おらず、新学期初日開始速攻でそわそわ感を楽しんでいるように思えた。だが俺は違う意味でのソワソワに陥っていた。
「だがまあ、新学期初日ということで今日は少しバタバタするから手っ取り早く私がクジで決めてしまおうと思う」
そういいながら自身のスマホを取り出して、どうやら「席替えアプリ」というものがあるらしくそれで執り行うと言い出した。取り出されたスカーレット色をしたスマホは最近、機種変更したのだと嬉気に語っていたものというのをふと思い出した。
だが、これで納得するのが俺にはわからなかった。普通は自身の手でくじを引き席の良し悪しは自分の運次第だから成立するものではと。他人の手で決められるのは少しどうかと思った・・・のだがどうやらそれは違ったらしい。
「おー!いいね!はやくやろうぜ!」「づかちゃん先生、神席頼むよ!!」「何か緊張してきたんだけど(笑)」
俺の考えとは裏腹に肯定的な意見が次々と飛んできた。雰囲気を見るあたりこのクラスは席替えというイベント自体を楽しんでいるように思えた。もう一度ちらりと有村のほうへ目を向けると同じようにクラスメイトとわいわいしていた。どうやら有村も肯定的なのだろう。
「よし。それじゃあ、ちゃっちゃと始めるが目が悪いとかそういうのがあったら遠慮なく申し出てくれ」
誰一人手を上げていなかった。それを確認でき次第新塚は得意げにスマホをし始めた。
するとなにやら教室に備え付けられていたテレビと自身のスマホをケーブルへつなぎ始めた。そして液晶画面には席替えの結果だろうか、生徒の氏名がづらりと今の席位置とは違う場所で表記されていた。
クラスメイト達はその画面へ目線を一点に集中させまじまじと見つめる。そして、ひとしきり盛り上がり始め神席だと歓喜する者、仲のいい友人と近く楽しげに喜び合うもの、席が悪くて周りから「日頃の行いだな」などといじりを受けるんもの様々だった。
当の俺は今の列から左にずれて一つ後ろの席になっただけだった。窓際から一列ずれたことによって窓の外を眺めることが出来なくなってしまったのは少し痛いがまあ別に大した事はなかった。
それより俺は自身の名前より先に例の人物を必死に探した。
愛想笑いすんなよ有村。〜猫かぶりな『微完璧』少女に恋をしました〜 関つくね @nisigaki
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