溢れる あい をくれた君

@sakurakidani-kaito

出会い

二月に入った頃。防寒具無しじゃいられない寒さの日。皆は、紙袋を手に登校していた。私には関係ないとしか思わないけど、みんなにとっては大事な日らしい。そうバレンタインデーだ。世界がすべてハートでおおわれる。普段青い地球がこの時だけピンク色に色づけられる。そんな日だ。

 寒い外から下駄箱につくと、男子が群がっていた。廊下でがっかりしている奴はチョコが入っていなかったのだろう。かわいそうに。ぽつぽつと男子が並ぶ中で茶色がかったふわっとした髪が目に留まった。がっかりしている姿の彼。思わず彼の前で足が止まってしまった。彼は私に気づいたのか、顔を勢いよく上げてじっと私を見てきた。チョコをおねだりしているのか目をキラキラさせてきたけど、持っていない私にとっては無意味だ。罪悪感が襲ってきたが私は教室に急いで向かった。途中、振り返ると、彼は涙目になりながら私を睨んで口パクで「人でなし」と言っているように見えた。え?しょうがなくない?。そんな彼を見ていないかのように私はまた平然と歩き出した。我ながらひどい女だと思う。教室に入ると、教室の中でもチョコを渡していた。まるで公開処刑だ、でも嬉しそうな姿を見るとこっちまでにやけてしまう。ハイハイ熱々なこと。そこも素通りし私は窓側の一番後ろの席に座る。この席は私にとって、お気にいりの席だ。いろんな景色が見えるし、空だって見える。運がいい時は虹も見える。寝ても先生にばれないところも良いところだ。

 キーンコーンカーンコーン、大変!授業始まっちゃう!ドタドタと廊下からさっきがっかりしてた男子が入ってきた。その中に彼もいた。まだがっかりしてるところを見るとあの後も、貰えなかったのだろう。彼は私を見るなり、また睨んできた。

「文句あるなら言えばいいのに」

ぼそっと言ったつもりなのに彼に聞こえたのか

「期待させといて酷い奴。ほんとお前嫌い」

と、私の横を通り過ぎるときに呟いて言った。は?意味わかんないんだけど。私が悪いみたいじゃない。私の前の席に座った彼のふわっとした髪を見るともっとムカついてきた。私だってあんたなんか大っ嫌い。この後もプリントを回すとき彼は、地味に私の届かないところでプリントをひらひらさせていた。絶対わざとでしょ、最悪!彼の横顔がちらっと見えた。これでもかっていうほどにやにやしていた。もう何よ。昼休みに文句言ってやる。

 一時間目の終わり。私は彼の席に近づいて、言った。

「ねえ。昼休みに屋上来てくれる?」

「は?なんで俺が?」

「伝えたいことがあるの」

そう言うと彼はびっくりしながら

「いいよ」

って嬉しそうに言ってきた。何で嬉しそうなのか知らないけど一応今朝かわいそうだったので売店でバレンタイン用のラッピングをしたチョコのお菓子を買った。まあこんなんでいいだろう。義理だし。

  昼休みまであと少し、弁当の時間。屋上で空を見ながら食べようと屋上に行く。私は皆みたいに一緒に食べたいとか思わない。だって遅れるだけだから。わざわざしなくてもいいと思う。こんな性格だから、高校生になって約一年たった今でも友達はいないのだろう。中学生のときはそんなことなかったのに。休み時間になると遊ぶ友達がいて。いつからだっけ?綺麗な罪を知らない空を見るとだんだん思い出してきた。   

             ー 今から一年程前 ー

私には、由紀ちゃんという中学から仲良くなった友達がいた。登下校も一緒にしていた。もうすぐ卒業だから、私は由紀ちゃんに高校どこ行くのか聞いた。

「由紀ちゃん。由紀ちゃんはどこの高校に行くの?」

「私は、渡邊高。晦月は?」

「私も!!一緒になれたらいいね」

「ね!」

二人で笑いあったのに。こう言ってたのに。聞いちゃったんだ。放課後の時。

「ねね。一緒帰ろう!」

「晦月はいいの?」

「晦月、最近うざいから嫌。この前も高校一緒になれたらいいね。とか言ってたけど、成績的に無理でしょww」

ひどい。笑って帰ってたのにうそだったんだ。由紀を絶対見返してやる。ここから私は猛烈に勉強した。寝る間も惜しんで。

 そしてついに試験の合格発表翌日。私の番号は・・・

ーあった。やった!嬉しくてニコニコしてたら由紀の姿が見えた。あのことがあっても私は由紀と仲良くしていた。騙されているふりをしていたのだ。遠くからでもわかるくらい由紀は悲しい顔をうかべていた。その顔から察すると落ちたのだろう。由紀がこちらに気づいた。由紀は私に近づいて

「どうだった?」

って聞いてきたから私は満面の笑みで

「受かってたよ」

って言った。そしたら彼女は急に怒った顔で

「何であんたみたいなのが受かって、私は落ちるのよ!」

と叫んできた。そんな事言われても困る。でもこの時の私はどうかしていたのだろう。彼女に言い放ってしまった。最低な言葉を。

「あんたみたいなのって?あんたが陰でこそこそ言ってるときも私は勉強してた!それにあんたの言ってた言葉、私聞いてたから。あんたは人のことより自分の心の心配をしたら?まあもうあんたと関わる気なんてないから」

「は?全部知ってたの?裏切者。あんたなんかいなくても私には友達がいるから」

「友達?皆あんたの本性真っ黒ってしてるから。ほんと良かった。由紀なんかと一緒じゃなくて。」

ここで分かった。なんで今まで隠れて仲良くしてたのか。もうやめないと、そう思ってるのに壊れた歯車のように言葉が回り続けている。制御が聞かないのだ。

「あんた、天国から地獄に落とされた気持ちがわかる?私はあんたのせいでこんなことになったの、あんたはそのまま地獄にいれば?あんたなんか本当の地獄におちればいいのに。」

ここまで言い切って我に返った。目の前には由紀の姿はなかった。ひどいことを言ってしまった事に気づく。私はただ謝ってほしかっただけなのに。そのあとも由紀を探した。高校内に彼女の姿はもうなかった。私はこの後、嬉しかったはずの高校に無事入学したのだけど、あまり嬉しくなかった。そしてまだ悲劇が終わってなかった。終わったと思ってたのに。

 悲劇を知ったのはGW明けのことだった。クラスの子が噂してたのだ。

「私立の子。いじめが原因で自殺したんだって」

「え?名前は?」

「たしか・・・花村 由紀だよ」

うそ。由紀が・・・もしかして私のせい?ただただ茫然と立ちつくしてしまった。あれから連絡は無かった。関わってもなかった。自殺するなんて意味が分からない。私は怖くなった、ここから友達をつくるのがまた命が消えるんじゃないかって。関わりたくなくなった人と。

 ー思い出した。全てを。恐怖が全身をむしばんできて呼吸が乱れる。そのまま視界が暗くなりその場で仰向けに倒れこんだ。運悪く誰もがグラウンドや教室にいて、屋上は私だけだった。誰も上がってこない。たった数分なのに、何時間にも長く感じた。助けて、誰か。そう願っても来てくれる気配がない。こんなときフィクションだったらイケメンの彼が助けてくれるんだろうけど、そんなのあり得るわけない。自力で何とかしなきゃ。まず呼吸を戻す。苦しい中私はリズムを頭の中でとりだした。1212・・・少したって呼吸がだいぶ戻ってきたはずなのに力が入らない。もがいても動いてくれない。私が意識と戦っていると、その場だけの奇跡が起きた。

 騒がしかったはずの声。風の音。鳥の鳴き声。一瞬だけすべて止まった。『無』になった空間に現れた彼。世界が違うようにそこには彼の世界だけが 

             ー存在していたー









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