まずは文章の美しさが江戸時代の雰囲気、色街の風情を情緒豊かに描写しており、冒頭の迫力ある捕り物の場面と相まって、直ぐに物語の世界へと引き込まれました。
事情があって武家の出自ながら陰間茶屋で色を売る伊織が、人を殺めて捕り手に追われた御家人崩れの樋口を色街に匿う。そんな限られた空間、時間の中で、ひととき結ばれる二人の心の動きも丁寧に描写されており、読めばただ、溜息をつくばかりです。
短い物語ながら、最後に、え、と驚くような事実も明かされ、結末は悲劇ではあってもこの後に続く物語があることを読者に予感させる、そんな余韻を読後に感じました。
この物語が書かれたのは2,3年ほど前になるのでしょうか、けれどこの物語は作者様が今も書き続けられている本編の物語の番外編であるとのこと、時代物をじっくりと楽しみたい方は是非、こちらの作者様の作品をご覧になって下さい!
この手の作品は、物語が進展しないだけに、文章表現力が問われるんだよね。その点、本作品は中々に雰囲気を醸し出している。
背景に控える事情も、断片的に頭を覗かせていて、奥行を感じさせる。
でも。
でも、である。
推理小説で例えるならば、殺人事件の容疑者が現れるも、その容疑者は突然の心臓麻痺で死に、真犯人か否かは分からず仕舞い。何故か探偵も立ち去ってしまい、犯行の動機も未解明なまま…では、読者のフラストレーションは溜まる一方でしょう。
だから、星2つです。但し、短編にはMAX2つが私の信条なので、そんなに悪い点数じゃないです。
長編を読み漁る読者に偶々運悪く遭遇したと、諦めて下さい。
追伸
唐突ですが、作者の別作「狐と剣士」は中々に面白かったです。