旅二十九日目 山幸彦様の呪いと、海幸彦様の受難

 お兄さんの釣り針を探している山幸彦様と一緒に、海底宮殿にやって来ました。しかし、山幸彦様はアマテラス様の子孫ということで、宮殿の主であるワタツミ様の手厚い歓迎を受けました。

 そして、豊玉姫様と夫婦になりました。


 山幸彦様は肝心の釣り針を忘れ、海底宮殿で豊玉姫様との甘い生活を送っています。さて、しばらく進展がなさそうなので、時間を飛ばましょう。






 三年程、時間を飛ばしたところで動きがありました。


「あ! そういえば、兄の釣り針の事を忘れていた!!!」


 山幸彦様はやっと本来の目的である、兄の釣り針の事を思い出したようです。

「ワタツミ様、思い出した! 僕はここに兄の釣り針を探しに来たんだ!」」

 ワタツミ様に事情を話しますと、彼は海中の魚を集めて、一匹、一匹、口の中を調べました。


 すると、鯛の口の中に引っかかていた釣り針が見つかったのです。


「これだ! これに間違いない。それでは、私は故郷に戻って兄に釣り針を返してきます」

 山幸彦様は喜んでいますね。

「わかりました。しかし、山幸彦様。この釣り針を返す時は、兄に背を向けて“ふさぎ針、せっかち針、貧乏針、愚か針”と唱えてください。そして、兄が山に田んぼをつくったら、貴方は平地につくってください。もし、兄が平地に田んぼをつくったなら、貴方は山につくってください。そして、争いになったらこの珠を使ってください」


 ワタツミ様が渡したのは、二つの珠でした。 


「これは?」

「この二つの珠は潮の満ち引きを操る珠です。兄が貴方に酷い事をしてきたなら、この潮満珠しおみつたまで溺れさせてやりなさい。謝ってきたら潮干潮しおふるたまで、水を干上がらせて許してやりなさい」

「兄さんがそんな事するわけないけど、まあいいや。ありがとう、ワタツミ様」 


 こうして山幸彦様は妻であるを置いて、地上へと帰っていきました。


「帰りはワニ(サメ)に送らせます。それではお元気で」

 あらら、山幸彦様はワニに乗って、海底宮殿を去っていきました。豊玉姫様を残して、大丈夫でしょうか?

 取り敢えず、私達も潜水艦に乗って地上へと向かいましょう。




 

 さて、三年ぶりに故郷に帰ってきた山幸彦様は早速、兄である海幸彦様の元へと向かいました。

「兄さん、ただいま」

「お前、三年もどこにいたんだ!? てっきり死んだと思っていたぞ」

「僕が簡単に死ぬわけないじゃないか。はい、これ、兄さんの釣り針」

「確かに、これは俺の釣り針だ」

 そして、山幸彦様は後ろを向いて……。

「ふさぎ針、せっかり針、貧乏針、愚か針」

 ワタツミに教えてもらった通り、呪いの言葉を唱えます。

「何か言ったか?」

「何も言ってないよ。 (・ω<) テヘペロ」



 さて、ワタツミ様から教えてもらった呪いの言葉を、ちゃんと唱えた山幸彦様ですが、海幸彦様はこれからどうなってしまうのでしょうか。

 


 海幸彦様は山に田んぼを作りました。


 勿論、山幸彦様は山の麓にある平地に田んぼを作ります。


「お前、何で俺から離れて田んぼを作るんだ?」

 海幸彦様、なんだか怪しんでいますね。


「なんでもないって、さあ、田んぼを耕しに行こうっと!」

「変な奴だな。海で何かあったのか?」

 海幸彦様はワタツミ様の、呪いの言葉を知りません。


 

 そして、雨は何故か山の方には降らず、雨雲は山幸彦様の田んぼがある、平地ばかりに流れていきます。


 あっと言う間に海幸彦の田んぼは干上がっていき、反対に山幸彦の田んぼは豊作となりました。


「なんでだ!? 山幸彦、お前の土地を寄越せ!」

「うん、いいよ」

 

 海幸彦様は山幸彦様を追いやって、平地に田んぼをつくりました。そして、山幸彦様は山の上に田んぼを作りました。


 しかしワタツミ様の呪いはまだ続いています。


 雨は山の上に降り、平地に雨雲は流れていきません。


 前回と同じく山幸彦様の田んぼだけが豊作になり、海幸彦様の田んぼは稲が育たなかったのです。

 


 さて、個人的な意見ですが海幸彦様は、弟がいない間もちゃんと国を治めていましたし、また山幸彦様が失くした大事な釣り針を、探させて返上させる事も筋が通っています。

 

 海幸彦様は何も悪い事はしていません。

 

 しかし理不尽にも海幸彦はどんどん貧乏になっていきます。一方、山幸彦様の生活は豊かになっていきました。



「くそ、なんで俺だけ……」

 海幸彦様、だいぶやつれてきましたね……大丈夫でしょうか?


「山幸彦が釣り針を返した時、呟いたのは呪いの言葉だったんだ……おのれ山幸彦!」

 ファミコンの忍者ゲームの名言みたいな事を言って、海幸彦様は走っていきました。

 どうやら、兄弟間で争いが起きそうです。一体どうなるのでしょうか!?


「山幸彦! お前を、斬る!」

 ああ、なんという事でしょうか!? 海幸彦様は十拳剣を抜いて、山幸彦様に襲いかかったのです。


 しかし、山幸彦様は余裕の表情をしています。

 それもそのはず、ワタツミ様からもらった、潮満玉を取り出したのです。


 すると、兄弟の周囲には、どこからともなく水が溢れだします。しかも水は海幸彦様だけを飲み込みました。


 海幸彦様、大丈夫ですかー!?

 

 海幸彦様は波に揉まれて溺れています。そして、息の続かなくなったのか、海幸彦様の顔は、だんだん蒼白になっていきます。


 このままだと死んでしまします。


「も、もう、許してください。私は貴方に逆らいません。どうか、命だけは助けてください」

 耐えられなくなった海幸彦様は、山幸彦様に許しを乞いました。


 そして、山幸彦様が潮干珠を取り出すと、洪水は嘘のように引いていきました。


 ビショビショになった海幸彦様は、弟の従者になる事を誓いました。そして、山幸彦様が国を治めていく事になったのです。



 今回は、少し理不尽な展開でしたね。

 

 さて、兄の海幸彦様を従えて山幸彦様ですが、妻である豊玉姫様との関係はどうなるのでしょうか。

 

 それでは、また次の旅路でお会いしましょう ノシ



 

 

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