旅三十日目 山幸彦様と豊玉姫様の再会

 海の中から浜辺へと女神が上がってきました。勿論、その女神様は豊玉姫様です。

 

 彼女は山幸彦様が地上に戻って行った後も、ずっと彼の事を想っていったのです。


 おや、偶然にも山幸彦様がこちらに歩いてきましたね。

「豊玉姫じゃないか!」 

 勿論、愛しの豊玉姫様を山幸彦様が忘れるわけがありません。

 山幸彦様は、海底宮殿のから遙々やってきた豊玉姫様を抱き締めました。


 いやぁ、感動の再開ですね


「会いたかったわ。山幸彦」

「僕もだ。豊玉姫」

「浮気はしてないよね? 日本の神々はすぐに他の女を抱くから」

「僕が愛しているのは、豊玉姫だけだ」

 山幸彦様の言葉に嘘偽りはありません。実の兄を苦しめた山幸彦様ですが、日本神話の神様には珍しく、豊玉姫様以外の女性と関係を結んでいません。

 

「実は、私、貴方の子供を身ごもっているの」

「なんだって!?」

「本当は随分前から妊娠していたんだけど、天つ神の子を、海で産むわけにはいかないでしょう。だから地上に行くまで神のチート能力で、出産を伸ばしていたの」

「そういう事だったのか! それならば、すぐに産屋を建てよう」

 

 こうして山幸彦様は急いで産屋を建てましたが、豊玉姫様が産気づくのが思ったよりも早かったようです。


「ダメー、もう、産まれるー」

「もう、少し待てないのか!?」

「無理、もう出てきちゃいそう!」

「仕方がない。まだ完成していないが、産屋に入るんだ」


 こうして豊玉姫様は、未完成で外から中が見えてしまう産屋で出産する事になったのです。


「私は本来、海に住む者だから、子供を産む時は本来の姿に戻らなければならないの。それを見られるのは、恥ずかしいから、絶対に見ないで」

「はぁ……そうなのか」

「だから、中を覗かないでね。絶対に覗かないでね。絶対だよ! 絶ッッッッッ対に覗かないでね」


 このやり取りは、どこかで見たことがありますね。


 フラグを立てまくって、産屋へと入っていった豊玉姫様ですが大丈夫でしょうか?


 

 日本神話では出会ってすぐ合体するのもお約束なら、イザナギ様とイザナミ様の一件のように、「覗かないでね!」と言われて、覗いてしまうのもよくある事です。


 この山幸彦様も例外ではなく、リサリサ先生のお風呂を覗くジョセフのように、お産が始まると岩の影に隠れながら、そっと産屋の中を覗きました。


 なんと産屋の中にいたのは豊玉姫様ではなく、一匹のサメです。

 

 そういえば豊玉姫様は出産の時は、本来の姿に戻ると言っていましたね。サメが豊玉姫様の本当の姿だったのです。


「ぎょっぎょっぎょっ!」

 これには、山幸彦様も驚きを隠せませんでした。



 お産の最中でしたが、サメの姿をした豊玉姫様は山幸彦様の方を見ていますね。きっと彼の視線に気づいたのでしょう

 

 

 元気な産声が聞こえてきました。どうやら、無事に赤ちゃんが産まれたようです。

 

 しかし、山幸彦様と豊玉姫様は素直に喜べません。


 豊玉姫様は見られたくない本当の姿を見られ、山幸彦様は約束を破ったのが、バレてしまったからです。


「覗かないでって言ったのに、貴方は約束を破りました」

「それは、悪かった。しか豊玉姫がどんな姿でも、僕は君を愛する」

「私は海に住む者なので、長く陸にいる事はできません。でも、海底の宮殿と地上の宮殿を行き来してでも、この子を育てようと思っていました。けど、私はもう、海から上がる事はないですよう。さようなら、山幸彦。貴方と一緒にいられて私は幸せでした」

「待ってくれ、豊玉姫!」

 

 山幸彦様の制止を聞かず、豊玉姫様は子供を置いて、海へと帰ってしまいました。


 浜辺では赤ちゃんが産声を上げています。


 山幸彦様は我が子を抱き締めます。



「お前は未完成の産屋でも、ちゃんと産まれてきた勇ましい子だ。鵜葺草葺不合命ウガヤフキアエズノミコトと名付けよう」

 

 

 こうして、山幸彦様は男手一つで我が子を育てる決意をするのです。


 ニニギ様もコノハノサクヤ様以外の女性と、関係を持ちませんでした。


 しかし、それはニニギ様がコノハノサクヤ様との賭けに負けたからです。

 

 しかし山幸彦様と豊玉姫様の間には駆け引きなどなく本当の意味で、一途な愛を貫いた神様同士といえます。


 この二神の関係は本当に終わってしまうのでしょうか?


 それは、また明日ノシ


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