旅十六日目 オオクニヌシ様の愛と欲望の日々

 今回の旅の舞台は高志国こしのくに(北陸地方)です。

 北陸地方といえばお米が美味しいので、良いお酒がありますね。越乃寒梅でもお土産に買って帰りたいところです。 


 さて、オオクニヌシ様の目的は出張ビジネスではなく、浮気です。


 噂の美女がいるの糸魚川いといがわの近くまでやってきました。名前は沼河姫様ヌナカワヒメサマと言うのですが、どれほどの美女なのでしょうか。


 

 沼河姫様の家に着くと、オオククヌシ様は扉をノックしました。

「どなたですか?」

 扉の向こうに沼河姫様がいるようです。

 しかし、姿を現しません。オオクニヌシ様が訪ねてきて、照れているのでしょうか


『私の名前は八千矛神ヤチホコノカミ。日本の隅々まで妻を探しましたが、未だ素敵な女性は見つけられません。しかし遠い遠い、高志国に頭が良くて、美しい女性がいると聞き、プロポーズしにきました。刀の紐も、旅仕度も解かず、あなたの寝ている部屋の扉をノックすると、木々の繁る青い山ではヌエ(山に住むと信じられていた妖怪)が鳴き、キジが叫び、庭ではニワトリが鳴き出し朝が来るのを告げている。あのいまいましい鳥どもを殺して、鳴くのを止めさせてでも、朝が来てほしくない』


 オオクニヌシ様はポエムを読んで口説きはじめました。ちなみに八千矛神というのは、オオクニヌシ様の別名です。


『ヤチホ神様、私は萎れた草のような女であり、風に吹かれてフラフラ飛んでいる水鳥のようです。でも、いずれは、入り江にいる鳥のようにあなた様だけの鳥になるので、どうか鳥達を殺さないでください。木々が繁る青い山に日が沈んだら、夜がやってきます。でもあなたは、朝日のように爽やかにやってくるのでしょうね。そして白い腕で、淡雪のような若い私の胸をそっと撫でてください。それから手も握ってください』


 要するに一晩待ってください、という返答ですね。


 オオクニヌシ様は言われた通り、沼河姫様の家から静かに去っていきました。 

 さて、明日の夜まで時間があるので、この辺りでも観光しましょう。どこかに地酒を売っているお店が、あるといいんですが……。



 そして次の夜。 

 

 オオクニヌシ様が沼河姫様の家に再度訪問すると、そっと家の扉が開きました。


 中から出てきたのは、ぱっちりとした目が特徴的ですが控えめな感じの優しそうな美女です。ファイナルファンタジーで例えるならエアリスってところでしょうか。


 オオクニヌシ様は静かに家に入っていきます。きっと今ごろオフ○こを楽しんでいる事でしょう。

 家の中を覗いてみたいところですが、それは出来ません。

 

 理由は言わなくてもわかりますよね。




 オオクニヌシ様はこのように、出雲(島根県)を中心に国々を支配し、また田畑を整えるなど開拓も行っていきました。 


 同時に、様々な土地に浮気相手をつくり、積極的に合体して、沢山の子種を蒔いていきます。


 現代社会だと、オオクニヌシ様のような事をしたら、何かと問題になりそうです。しかし、これは神話の世界の話です。

 男神が子種をばらまき、多くの女神を孕ませる事は、五穀豊穣や豊漁に繋がるとされ縁起が良いとされています。



 さて、面白くないのはスセリビ様です。オオクヌシ様が今の地位を手に入れられたのも、スセリビ様の助力があったからです。

 色々な困難を共に乗り越えてきたにも関わらず、他の女神ばかりに目移りするので、スセリビ様は焼きもちをやいていました。


 そんなスセリビ様の焼きもちに悩んだオオクニヌシ様は、しばらく出雲から大和の国(奈良県)へ旅立つ事にします。

 

 馬に乗り出発した時です。スセリビ様が子供のように泣きながら、オオクニヌシ様の側に駆け寄ってきました。


 そんなスセリビ様にオオクニヌシ様は詩を読んで慰めます。

『愛しき我が妻よ。お前は泣かないと言っているが、私の姿見えなくなったら、山の麓のススキのように、うなだれて泣くだろう。しかし、めそめそするな。心配しなくても、我が妻は若草のように、若々しくて美しい。一番愛しいのはお前だ』


 浮気しまくったあげく、嫁の嫉妬に悩んで出ていこうとしているのに“何を言っているんだ!?”って感じですが、スセリビ様も詩を読んで想いを伝えます。


『私のオオクニヌシ様。あなたは男ですから、あちこちに若い妻がいるんでしょうね。しかし、私は貴方様以外に夫はおりません。さあ、柔らかい布団の上で、淡雪のように白く若々しい胸に触れてください。お酒も用意しました。どうかこちらへ……』


 このように詩で想いを伝えるのも、情熱や感情を表現するだけでなく、歌詞には言葉の力、すなわち『言霊』が宿ると信じられていました。 

 その言霊で、スセリビ様は離れていくオオクニヌシ様を引き留めようとしたのです。


 すると言霊の効果があったのか、オオクニヌシ様は急にスセリビ様の事が愛しくなり、オオクニヌシは馬を降りて、家の中に戻りました。

 今度は大和の国への旅だと思ったんですが、まだ出雲から出る事はなさそうです。 


 スセリビ様とオオクニヌシ様が、寝室で一緒にお酒を飲んでいますね。久しぶりの夫婦水入らずの時間で、スセリビ様はすごく嬉しそうです。

 二神の酔いも回ってきて、気分も盛り上がってきたようです。


 私達はそろそろ寝室を出ましょうか。夫婦の営みを覗くのは失礼です。

 我々、神話の旅人はクールに去りましょう。


 ここまでの旅を振り返ると、オオクニヌシ様はただ女性と遊んでいるだけのようです。

 しかし、ちゃんと国を統治し、日本を豊かな所へと発展させた偉大な神様なのです。


 しかし、その偉業はオオクニヌシ様だけで成し遂げたものではありません。



 ある日、国作りに悩んでいたオオクニヌシ様が海岸に立っていると、木の実で出来た船に乗った、小さな神様が流れ着きました。

 この小さな神様こそがオオクニヌシ様の相棒となる、少名毘古那神様スクナビコナノカミサマだったのです。

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