旅十三日目 覚醒したプレイボーイとスサノオ様の試練

 黄泉比良坂よもつひらさかに戻ってくるとは思いませんでした。

 

 イザナギ様とイザナミ様が決別した所から黄泉比良坂へと入っていきます。まさか、あの時とは逆のルートを辿るとは思いませんでしたが、仕方がない。

 私達もオオナムチ様についていきましょう。


 さて、相変わらず暗い所ですが、あまり悪霊の気配を感じません。スサノオ様がここを治めているからでしょうか?

 おや、なにか看板が出てきましたね。


『←根の堅洲国  黄泉の国→』

 

 間違えて死者の世界である黄泉の国へと、迷い込まないように配慮されていますね。やはりスサノオ様が治めているからか、秩序が保たれているようです。

  

 オオナムチ様は看板を頼りに黄泉比良坂を進んでいくと、大きな宮殿が現れました。どうやら、根の堅洲国に住むスサノオ様の所へと着いたようです。


「ここが、スサノオ様の宮殿か……アポをとらずに来たけど、どうしよう」

 おや、オオナムチ様、ここに来て宮殿にお邪魔する事を戸惑っていますね。

 暫く玄関の前で迷った後、意を決してノックしました。


「誰か来たの?」


 すると玄関の扉が開いて現れたのは、目がキリっとした気が強そうな女神ですね。可憐で可愛らしい八上姫様とは、違うタイプの美女ですね。


「あ、貴女は?」

須勢理毘売スセリビメといって、スサノオの娘よ」

 オオナムチ様はスセリビ様を見た途端、目が離せなくなりました。

 ”なんて美しい、女の子なのだろうか”


「君、カッコいいね! ねえ、抱いてくれない?」

「え、ええええええ!? で、で、で、で、でも、僕、そんなにカッコよくないよ……」

 今までお兄さん達にいじめられてきたので、オオナムチ様は自分の容貌に自信がないようですね。

 美女にカッコいいと言われたので、驚いています。 

 

 でも、オオナムチ様には八上姫様という運命の相手がいる筈ですが……果たして、美女の誘惑に、オオナムチ様は勝てるのでしょうか?


「もしかして好きな子じゃないと抱けないの?」

「いや、ダメじゃないけど……」

「ふーん」

 オオナムチ様、お顔が真っ赤ですが、まだ理性が残っています。

 

「私のことが……好きにな~る、好きにな~る。ダメ?」

「はい好きです! もう我慢できませーん」

 スコールだったらクールに流すところでしょうが、オオナムチ様は日本神話一番のプレイボーイです。

 ついにオオナムチ様の自尊心の低さに埋もれていた、本性が現れました!

 

 オオナムチ様はルパン脱ぎで、すっぽんぽんになるとスセリビ様に抱きつきます。

「きゃー ( 〃▽〃)」

 スセリビ様もノリノリですね……残念ですかオオナムチ様とスセリビ様の『合体』のシーンはカットさせていただきます。


 どうしても気になる方は、お手元のスマホかパソコンにて『とらぶる ダークネス』と文字を入力してググると、きっと幸せになれます。



 さて、合体した後、スセリビ様は宮殿へ戻り、父の所に行きました。

「めっちゃイケメンの神が、お父さんを訪ねてきたわよ!」

「何!? イケメンの神だと!?」

 歳をとったようですが、スサノオ様はダンディなおじさまになっています。


 さて、嬉しそうに言うスセリビ様をじっとスサノオ様は観察します。


「なるほどな……」

 スサノオ様はなんとなく察しがついたようですね。

 

 そしてスサノオ様が玄関先に向かうと、そこにいたのはcherryを捨てたオオナムチ様です。


「こいつは葦原色許男神アシハラシコオノカミだ」

 スサノオ様はオオナムチ様を見ると、そう言いました。

 

 ちなみに葦原アシハラというのは日本の事です。神話では日本の事を、葦原の中つ国と呼んでいます。

 そして色許シコオというのは「強い男」、そして「イケメン」という二つの意味があります。

 

 つまりスサノオ様はオオナムチ様に『日本のイケメン』というあだ名をつけたのです。


「まあ、俺の家に入れ!」

 スサノオ様はオオナムチ様を自分の宮殿に招き入れました。さて、私達もお邪魔しましょうか。





「お前の部屋は、あそこの岩室いわむろだ」

 スサノオ様が指差したのは山のですね。そこには斜面に掘って作った穴があります。

 うーん、部屋とは言えないと思うんですが……

 

”ちょっと待って、あそこは……”

 スセリビ様の顔が青ざめていきます。何かあるのでしょうか?

 

 さて、オオナムチ様と一緒に斜面を登ってきたのですが、オオナムチ様は岩室を前にして青い顔をしています。

 私も覗いてみましょう……ゲゲゲ!


 ただの穴じゃありません。無数の毒蛇がいる蛇の岩室だったのです。

 どうやらスサノオ様は、娘の身も心も奪ったオオナムチ様の事を好ましく思わなかったのでしょう。


「美女の次は蛇と寝るのか……泣けるぜ……」

 岩室を前に唖然としていたオオナムチ様です、スセリビ様が近寄り、薄く細長い布を渡します。


「これは蛇の領巾ひれと言って、蛇を大人しくさせる魔力があるわ。蛇が噛もうとしたら三度振って」

「ありがとう。スセリビ」

「当たり前じゃない。私達、もう夫婦なんだから」


 神話の時代に婚姻届なんていうものはなく、合体しただけで男女は夫婦になれます。


 スセリビ様の言葉通りオオナムチ様が蛇の領巾を三度振ると、蛇は大人しくなりました。


「さて、寝るかzzzzz」


 cherryも捨てる事が出来たし、オオナムチ様は良い夢を見ているに違いありません。




 

 次の日の朝。

「おはようございます。スサノオ様」

「お、おはよう(な、なんで無事なんだ!?)」


 スサノオ様はオオナムチ様が毒蛇に噛まれて死んだと思っていた事でしょう。しかしなに食わぬ顔で現れたので驚いています。


 そして今度は無数のムカデとハチがいる岩室で寝る事を、スサノオ様はオオナムチ様に命じます。

 しかしスセリビ様は、ムカデとハチの領巾をこっそり渡しておいたので、その日もオオナムチは熟睡する事ができました。


 スセリビ様のサポートのおかげで、難を逃れたオオナムチ様でしたが、次回、最大の危機が訪れます。

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