旅十二日目 オオナムチ様の逃亡劇
兄の八十神達によって殺されてしまったオオナムチ様でしたが、彼の死を知り、高天原に上っていった女神がいます。
彼女は
サシクニワカ姫様は息子の死を嘆くのもつかの間、すぐに高天原に住む独神の
「サシクニワカ姫。事情はわかりました。すぐに治療すれば間に合うかもしれません」
「本当ですか!?」
「はい。
「その方達は何者なんですか」
「キサガイ姫は赤貝の神。そしてウムガイ姫は蛤の神です。この二神は……」
「カムムスヒ様! 話は聞かせてもらいました!」
おや、誰か現れたようですね。
「愛と情熱を司る赤い神、キサガイレッド!」
「母性と生命を司る白い神、ウムガイホワイト」
「「二人合わせて、ニマイガイシスターズ!!!」」
「………( ゚д゚)ポカーン」
一児の母であるサシクニワカ姫様は、若い子達のノリについていけないご様子です。
三神は急いでオオナムチ様の所へ戻りました。
「私の殻を粉にして、ウムガイホワイトの出す汁に溶かして、これを塗ればオオナムチは生き返るはずです」
「でも、キサガイさん」
「違います。私の名前は、キサガイレッドです」
「キ、キサガイレッドさん。殻をとったら貴女が死んでしまうのでは?」
「大丈夫ですよ。また生えてくるんで」
こうしてサシクニワカ姫様はキサガイレッドの殻を、すりつぶして粉にしました。そして、ウムガイホワイトの出した汁と混ぜます(どこから、出てきた汁なのかはご想像にお任せします。
そして出来上がった、白く濁ったドロドロとした液体をオオナムチ様の全身に塗りました。
はたしてオオナムチ様は生き返るのでしょうか……おや、黒こげになり潰されたオオナムチ様の身体が元に戻っていきます。
「あれ、お母さん。どうしたの?」
「ああ、オオナムチ。生き返ってくれて、本当によかった!」
「やったね! ウムガイホワイト」
「ええ、キサガイレッド。私達の秘術『貝合わせの術』が効いたわ」
百合の花の香りが漂ってきそうなネーミングセンスですが、オオナムチが復活したので、サシクニワカ姫様だけじゃなく、キサガイレッドとウムガイホワイトも喜んでいます。
おっと、突然全身に鳥肌が立ちました。誰かが強烈な殺気を放っているようです。
「くそ! カムムスヒめ余計な事をしてくれたな!」
「俺達が直接手を下してやろう!」
「今度はバラバラにしてやろう!」
やっぱり、八十神さん達でしたね。
逆恨みばかりしているから、異性にモテないんですよ。まあ、私の声は届かないんですけどね。
カムムスヒ様のおかげで助かったオオナムチ様でしたが、安心するのもつかの間、八十神さん達が剣を持って、彼の所に押し寄せて来ました。
「オオナムチ。
「はい!」
「キサガイレッド、ウムガイホワイト、ありがとうございます! 貴女たも早く逃げてください」
「ウムガイホワイトと高天原へ逃げるから、大丈夫です!」
「追ってが来てるわ! 早く逃げて」
こうして、オオナムチ様とサシクニワカ姫様は木の国(現代の和歌山県)へ、ニマイガイシスターズはカムムスヒ様がいる高天原へと逃げていきました。
キサガイレッドとウムガイホワイトはきっと百合な生活をしてるに違いないでしょう。この二神が気になるところですが、今回の主役はオオナムチ様です。
さっそく私達も木の国へ向かいましょう!
オオナムチ様と共に出雲(鳥取県)から、木の国(和歌山県)までやってきました。
数百キロにも及ぶ逃亡劇でした。人間の我々がついていくにはかなり厳しいですね……流石、神のチート能力です。
さて、木の国という名前がつくだけあって、オオヤマビコ様が住んでいる所は深い森に囲まれ、出雲からかなり離れています。
これなら、八十神さん達もついてこれないでしょう。
「サシクニワカ姫、オオナムチ、よく来たね。疲れただろう、今はゆっくり休むといい」
オオヤマビコ様は木の神様で、優しそうなおじさんですね。しかし彼の本名は
『
「おい! ここにオオナムチっていう男が来ただろ! そいつを出せ!」
まさか、八十神さん達、ここまでオオナムチ様を追ってきたのですか!?
なんという執念。
鳥取から和歌山までオオナムチを追ってくる、その情熱とエネルギーを、ほかの事に使えないのでしょうか?
「ここにいたら危ない。
「ありがとう、オオヤマビコ様」
こうして、オオナムチ様は木の国を後にしました。
さて、あまり行きたくないですが、次の旅の目的地は根の堅洲国のようです……え!? なんで乗り気じゃないかって?
あそこは黄泉の国の近くにあるからですよ。ほら、イザナギ様とイザナミ様の決別があった場所なので、良い思い出がないんですよね……。
高天原に上って、ニマイガイシスターズの百合な生活を観察していた方が、よかったかもしれません……。
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