旅十日目、因幡の白ウサギ伝説
新たな神話の舞台にやってきました。今はスサノオ様とクシナダ姫様が結ばれてから、数百年経っています。
さて、ここは因幡の国(島根県)の沖合いにある、
「八上姫ー! 俺だー! 結婚してくれー!」
周囲の海も、島の主である八上姫様のように美しく……
「八上姫ー! こっち向いてくれー!」
豊かな自然が自慢の……
「八上姫、おぱんちゅ、ちょうだい!」
ああ、もう、さっきからうるさいですね! 私が案内人らしく島の観光案内をしているのに!
どうやら八上姫様は可愛い事で有名で、その話が国中に広まり、求婚を申し込む男神がこの島に押し寄せているようです。
少し様子を見に行きましょうか。
さて、八上姫様が住むお家の側までやって来ました。まるで、アイドルのコンサート直前のような列が出来てます。
しかも、男ばかり。すごい人気なのはわかりましたが、肝心の八上姫様の姿が見えませんね。
おや、八上姫様のお使いである、一匹の白いウサギさんがピョンピョンと跳ねながら、出ていきました。
家が男達で大変な事になっているのに、何処へ向かっているのでしょうか? 追いかけてみましょう!
ウサギさんについていったら浜辺に出ました。ここからは、本州がよく見えますね。
「おい!」
ウサギさんが海面に向かって誰かを呼んでいますね。海を見てみましょう。
おや、海の中では大きな影が沢山、動いていますね。
「おい! ワニ達、お前達の群れは一体何匹いるんだい?」
ワニというのはクロコダイルやアリゲーターのようなワニではなく、サメの事です。ワニという呼び方は、サメの古い言い方なんです。
ウサギさんの呼び掛けに気づいたワニ達は、海の中から顔を出しました。
「うーん、数えた事がないから、わからないな」
「じゃあ、ボクが数えてやる。全員、ここから向こうの陸地まで並んで、その上をボクが跳んで数えれば、どちらが多いかわかる」
「なるほど、頭がいいな。お前」
言われた通り、ワニ達は一列に並びます。
おや、このウサギさん、何やらニヤリと笑いましたね。ワニは気づいていませんが、私は見逃しませんでした。
何やら企んでいるようですね。
私達は船に乗って、様子を伺いましょう。
ウサギさんはワニの頭の上を、飛び跳ねながら海を渡っていき、だんだんと本州に近づいてきましたね。
あと一匹、跳ねれば本州に到着します。
「馬鹿なワニ達め。騙されたな、ボクは向こう側に渡りたかっただけだ」
あららウサギさんは本音をつい、漏らしてしまいました。どうやらワニの群れの匹数を数えるというのは嘘で、ただ本州に渡りたかっただけのようです。
「よくも騙したな!」
だけど、ウサギさんの声は、しっかりとワニの耳に届いています。
ワニの怒りを買ったウサギさんは海に引きずり込まれてしまいました。
「わあ、助けて! 薄い本みたいに、乱暴するのは止めて!」
「ダメだ。許さない」
「アッ-!」
ウサギさんは皮をワニに剥がされ赤裸にされ、砂浜で倒れています。
自業自得とはいえ、なんだかかわいそうですね。
「オレたちぃは、八十神ー♪ ガキ大将ー♪」
「あはは、いい歌だねー」
「いいぞー、いいぞー!」
おや、なんだか向こう方からテンションの高い男達がやってきました。彼らがきっとこのウサギさんを助けてくれるはずです。
ちなみに、彼らは
八十という字が入ってますが、文字のように八十人いる訳ではなく、数が沢山いるという意味です。
きっと、彼らも八上姫様に求婚しに来たのでしょう。
「なんだこのウサギは!?」
「どうしたんだ?」
「これは、酷い。痛むだろう?」
よかった。八十神さん達、ウサギさんに気付いてくれました。
「ええ、メチャクチャ、痛いです」
「治す方法を教えてやるよ! まず海水で身体を洗って、風で乾かしてから、山の頂上で寝ていれば治るよ」
えっ! そんな、傷に塩を塗るような行為をしたら、余計に酷くなるに違いありません。
それだけ、言って八十神は去っていき、ウサギさんは言われた通りにします。
「ひいいい! 海水が滲みる!!!」
うわあ、あれは痛そうです。それでも、ウサギさんは海の中で身体を洗ってから、砂浜に戻ってきました。
そして、風で乾かすと、塩を吹いて、余計に怪我を刺激ています。あまりの痛みに泣き出してしまいました。
「どうかしたのかい?」
おや、ジャニーズのアイドル並みに甘いマスクをしていて、優しそうな男神が、ウサギさんに声をかけてきました。
彼の名前は
しかし、オオナムチ様は八十神達の末っ子で、兄達のパシリにされています。今も兄達の荷物を背負わされていますね。
ウサギさんは泣きながら、ワニを騙して皮を剥がされてしまった事。そして大勢の男達の言う事を聞いたら、かえって傷がひどくなってしまった事を話しました。
「大勢の男達か……」
オオナムチ様は、ウサギさんに嘘を教えたのは兄達だと気づいたようです。
「よし! 僕が正しい怪我の治し方を教えてやろう」
「本当ですか!?」
「まず、身体を真水で塩気を洗い流し、蒲の穂を地面に敷いて、その花粉を全身につけるといいよ」
早速、ウサギさんはオオナムチ様の言う通りにしていますね。
すると剥がされてしまったウサギさんの皮は、たちまち治っていきます。
「ありがとうございます!」
「いいんだ。それよりも、もう誰かを騙すような事はしてはいけないよ」
「はい!」
元気になったウサギさんはピョンピョン跳ねながら、嬉しそうにしています。よかったですね。
「あなた様が私の主、八上姫様の夫となる方です」
「僕が、はは。冗談はよしてくれよ」
オオナムチ様、なんだか自信がなさそうです。日本最初の支配者としての風貌は、まだ感じられません。
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