旅八日目、スサノオ様の恋

 多くの悪さをしたスサノオ様はただ追放させるのではなく、ヒゲを剃られてしまいました。

 これは、生え変わる髭を剃る事によって、神の力を抑える呪術的な意味もあるのです。

 それにしても、スサノオ様。お顔がスッキリしたんじゃないですか? お兄さんのツキヨミ様に似ていて、なかなかのイケメンです。


 神としての力と肩書きを失ったスサノオ様は出雲の国(島根県)に降り立ちました。


 岩戸隠れの一件以来、久しぶりの地上ですね。一時的に太陽の光が閉ざされたとはいえ、豊かな自然は無事でよかったです。


「俺はこれからどうすればいいんだ……」

 さて、肥の河(斐伊川)をあてもなく、スサノオ様は歩いていますが大丈夫でしょうか?。

「取り合えず寝よ」

 流石、スサノオ様です。図太い神経をしています。私達もこの辺で休憩でもしますか……。





 小一時間ほど昼寝をした後、スサノオ様は再び川沿いに歩きはじめました。

 おや、上流から箸が流れてきましたね。

「ん、箸?」

 スサノオ様もそれに気づいたようです。


 川上から生活品が流れてきたという事は、この先に誰かいるのでしょうか?



 行くあてがないので、スサノオ様は川を上っていきます。私達もついていきましょう!

 

 すると、一軒の家がありました。なにやら、泣き声が聞こえてきます。何かあったのでしょうか?


 家を覗くと、ある夫婦と若い娘が泣いています。様子が気になったスサノオ様が、その中に入っていきました。


「どうした? 何故泣いているのか訳を聞かせてくれないか?」

 スサノオ様は一家に尋ねました。


「私たちは国津神くにつかみ足名椎アシナヅチという者です。妻は手名椎テナヅチと言います。そして娘の櫛名田姫クシナダヒメといいます。実は八人の娘がいたのですがヤマタノオロチという怪物が私達の娘を、一年に一人ずつ食べてしまいました。この娘が最後の子供です」

 国津神くにつかみというのは、地上で産まれた神様の事です。イザナギ様とイザナミ様が、地上で産んだ神様達の子孫ですね。

 天津神あまつかみが、高天原に住む神々の事です。 


 さて、どうやら、この辺りにはヤマタノオロチという、巨大で恐ろしい怪物が現れる危険地帯だったようです。神様としての肩書きを剥奪されたとはいえ、スサノオ様は高天原の神様です。

 彼は一体、どうするのでしょうか。


 スサノオ様は髭のなくなったアゴを触りながら、考え事をしていると、今までずっと泣いていたクシナダ姫様が顔を上げました。


 クシナダ姫様は可愛らしいお顔をしています。ファイナルファンタジーでいうところのガーネット姫といったところでしょうか。


 スサノオ様とクシナダ姫様の、視線が合います。おや、スサノオ様の顔が、なんだか赤くなってきましたね。


(この娘、めっちゃ可愛いじゃん!)

 スサノオ様は、どうやらクシナダ姫様に一目惚れてしまったようです。


「よし! なら、俺がヤマタノオロチを退治してやろう」

「ほ、本当ですか!?」

 スサノオ様の突然の申し出に、泣いていた三人の表情に光が宿りました。スサノオ様の髭はなくなりましたが、元々大きな身体をしていて強そうなので、頼りがいがあります。


「その代わり退治が上手くいったら、クシナダを妻にする!」

 初対面なのにいきなり求婚するなんて、スサノオ様、なかなか積極的です。


「え、ええ!? でも、それは……」

 お父さんのアシナズチ様だけでなく、テナヅチ様とクシナダ姫様まで困った顔をしました。

 

 とは言え、このリアクションも仕方がない事ですね。

 娘がヤマタノオロチの、餌食になるよりましかもしれません。しかし、突如現れた何処の馬の骨かわからない男に、娘を嫁に出すのも飲み込むのが難しい話ですから。


「一体、貴方様は何者なんですか?」

「オレは天津神のスサノオ。アマテラスの弟で高天原より、この地へ降りてきた!」

 アマテラス様の弟と聞いて、アシナヅチ様とテナヅチ様は驚き、そして大喜びしました。

 天津神がヤマタノオロチを倒してれるだけでなく、手に塩かけて育てた娘が、気高い神様に惚れられたのですから。


「アマテラス様の弟とは、おそれ入りました。喜んで娘を嫁にだしましょう」

 こうして契約は成立し、スサノオ様はヤマタノオロチを退治する事になりました。


「スサノオ様、何故私の為にそこまでしてくれるのですか?」

 少しはにかみながらクシナダ様がスサノオ様に聞きました。


「それは、俺、お前にめっちゃ惚れてんねん!」

 スサノオは頬を赤くしながら言いました。

「どうでもいいけど、なんで関西弁になるのですか?」

 なんだか初々しくて良い雰囲気ですね。スサノオ様は惚れた人の前でいい所を見せたいからか、やる気に満ちあふれています。 


 しかし、スサノオ様は髭をそられてしまい、神としての力は半減しています。はたしてヤマタノオロチを倒し、無事クシナダ姫様と結ばれる事は出来るのでしょうか?


 スサノオ様はクシナダ姫様を守るため、霊力でクシナダ姫様を櫛に変えました。

 

 おお、流石スサノオ様です! 力が半減しているとは言え、クシナダ姫様を違う物に変化させました。 


 そしてスサノオ様は櫛を自分の頭にさし、クシナダ姫様を隠しました。


 しかし、相手は恐ろしい怪物、ヤマタノオロチです。神の力を失っているスサノオ様に何か策はあるのでしょうか?


 

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