旅三日目 黄泉の国へ

 イザナギ様と共に黄泉の国の近くまで来ました。

 黄泉の国と現世の境界には、大きな御殿が建っていて、しかも重たそうな石の扉で閉じられています。


 ここは、まだ生者の世界ですが、既に妙な寒気がするし、異様な雰囲気が漂っています。

 少し怖いですが、イザナギ様は大丈夫でしょうか?


 どうやら、イザナギ様は石の扉をこじ開けて中に入ろうとしていますね。

 あんな重たそうな扉を動かすなんて、流石、チート能力を持った神様です。 


「もしかして、外にいるのはイザナギですか?」

 この可愛らしい声は、イザナミ様のものに間違いありません。扉を開けようとしていた、イザナギ様の手が止まります。


「イザナミか!? まだ、神産みも終わっていない。お前の助けが必要だ。さあ、帰ろう」

 早速、感動の再会でしょうか……でも、なんだか様子がおかしいですね。扉の向こうから、イザナミ様のすすり泣く声が聞こえてきます。


「…………どうして、もう少し早く来てくれなかったのですか? 私は死者の国の火と水で炊いた食べ物を、食べてしまいました。ですからもう、イザナギの所へは戻れません」

 どうやら、イザナミ様の共食きょうしょくの儀式は済んでいたようです。


 共食というのは、死者の国の鍋で煮炊きした食べ物を、死者の国の者達と食べ合う事で、その国へと帰化する事を意味するのです。


 つまり、イザナミ様は完全な死者となり、もう現世には戻って来れない事を意味しています。


「なんとかならないのか?」

「わかりました。死者の国の神々と話してきます。少し待っていてください。その代わり、私がいいと言うまで、黄泉の国へ入らないでください」

「ああ、わかった!」

「いいですか、絶対に入らないでくださいね。絶対にですよ。いいですか、絶ッッッッッッ対に入って来ないでくださいね」


 うーん、イザナミ様はフラグを立てているようにしか見えないのは、私だけでしょうか?


 イザナギ様は動かないし、私達も待っていましょう。とりあえず私はスマホでYouTubeでも観ています。





 随分と時間が経ちましたが、イザナミ様はなかなか出てきませんね。

 私達現代人は、スマホという便利な道具あるので暇潰しは簡単ですが、チート能力を持ったイザナギ様でもスマホは作り出せないのか、ただ座っている事しか出来ません。


 YouTubeも飽きてきたし、マリオカートでもやりましょうか、と思ったら、イザナギ神様が立ち上がりました。


「もう待てない!」

 やっぱりイザナギ様は、イザナミが立てたフラグを回収するようです。石の扉を開けて、中に入っていきました。

 

 早速私達も後を追いましょう。


 えっ!? 黄泉の国に入るのは怖い? 大丈夫です。

 この旅は某夢の国のアトラクションみたいなもので、どんなに怖い目に合っても傷つく事はありません。

 安全は保証されています。



 さて、イザナギ様と一緒に石の扉を潜りましたが、黄泉の国は真っ暗で何も見えません。これでは、進むのが難しそうです。

 

 おや、淡い光が灯りましたね。どうやらイザナギ様が、髪に刺していた櫛の一部を切り取り、その先にマッチのように火を点けたようです。

 

 私達現代人は、スマホのライトを頼りに進みましょう。


 ここは寒いし、視界は悪いし、なんだか臭いです。それに、悪霊達がそこら中にいるのか、異様な気配を感じます。

 夢の国じゃなくて、西ある映画の国のハロウィーンイベントと、言ったほうがいいかもしれません。

 

 それにしても、イザナミ様はどこにいるのでしょうか? どんどん奥に入っていきます。


 うん? なんだか、蠢いている影が見えます。あれは、なんでしょうか?


「イザナミか?」

「え、そんな! イザナギ、入ってきたのですか?」

「イザナミ、そんな所で何をしている?」

 なんだか、嫌な予感がしますが、イザナギ神様は愛しのイザナミに近づいていきます。大丈夫でしょうか?

 

「ダメ! 私を見ないで!」

 イザナギ様が灯した明かりによって、イザナミ様の姿が照らし出されます。


 ああ! なんという事でしょうか!

 

 そこにいたイザナミ様はゾンビのように、醜い姿をしているじゃないですか!


 でも、でも、でもですよ! 二神の強い絆と、深い愛で結ばれています。たとえイザナミ様がどんな姿になっていたとしても、イザナギ様は彼女を抱きしめるはずです。


「ぎゃああああああああああああああ!」

 って、イザナギ様! 何、悲鳴を上げているんですか!? 

 ええ!? 一目散に逃げ出した!


「外で待っていろと言ったのに、裏切ったのですね! しかも、私に恥をかかせて……許せない!!!」


 うわぁ、イザナミ様、めっちゃ怒ってます。私達の安全が保証されているとはいえ、これは『バイオハザード2 RE』をVRでプレイしているかのような、臨場感と恐ろしさです。


 そろそろ、私達も黄泉の国から退散しましょう。

 

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