ラスト敬老会
山田沙夜
第1話
「そうすけのママです」
ようこさんは楽しそうに挨拶した。ゆるく束ねた髪、トップスは白いブラウス、くすんだオレンジ色のワイドパンツ。艶やかに微笑む。
場の雰囲気を攫っていくオーラが教室を和ませる。
「冗談ですよ。ばぁばです」
そりゃそうだ。敬老会なのだから。
十七人のジジババが拍手しながら笑った。
リンゴ組の園児も十七人。ふっとさみしげな子の姿が目に入る。
ひとりの園児にひとりのジジババ参加というわけでもないのだから、シングル参加のジジババがいるし、カップル参加のジジババがいる。
ジジババが参加してない園児がいるのだ。
たとえば、みいちゃん。パパ方のおばあちゃんは仕事で、ママ方のおばあちゃんは遠くに住んでいて、ジジは来ていない。
それからあむくん。参加のおばあちゃんは弟の組にいっている。るみちゃんちのおばあちゃんもそうだ。
大丈夫。ようこさんの自己紹介で場が華やぎ盛り上がっている。ジジババが来てなくても、みんながにぎやかになるはず。
うちの孫は来年は小学一年生、ラスト敬老会はメンコ遊び。
十一センチ×十五センチに切ったチラシを、三角に折って、もう一度三角に折って、三角屋根の家の形にする。長方形に残った部分を半分に折って、また半分に折って、三角の底辺に合わせてもう一度折る。指先できっちり折っておく。
頂点と底辺を合わせて三角形を折り、頂点を折り込んだ長方形へ差し込む。頂点を突っ込んだ三角の両辺へ、底辺の両側を差し込む。
「ばあちゃん、へた」
「ばあちゃんのメンコ、きれいにできてるよ」
へたじゃないよ。ちょこっと自尊心などが傷ついたりする。
「じいちゃんのほうがいいよ。デカいしカッコいいよ」
じいちゃんのはきれいに折ってないからデッカくなってるんだよ。
孫はとっくにお友だちたちと遊びはじめていた。
二辺がすごく小さい超変形六角形のメンコは、折り方によって台形にもなっている。
厚みを増して抵抗する折り目を両手でしっかり力を込めて服従させる。マジックで名前を書いて孫の所有物になった。
ひとり一〇枚以上持っているはずだ。
メンコ遊びのテーブルは三台、園児も六人と六人と五人に別れた。
みいちゃんは隣のテーブルへ。ようこさんは隣のテーブル。
ここのテーブルは六人の園児にじんちゃん二人、ばあちゃん三人。あむくんとるみちゃんがいる。
さみしいテーブルにしたくない。ようこさんのテーブルは、がやがやとハイテンションだ。いいなあ。
わたしは相当がんばらないとわいわいできない。ようこさんのオーラが欲しい。
「はーい、はじめましょう」
ひとり一枚ずつメンコをだして、じゃんけんをして順番を決める。
しんみりと、はじまった。
ここはわたし、無理のしどころかもしれない。
「ざんねん! 惜しいね!」
うまくいってもいかなくても、大きな拍手。じいちゃんもその気になってきて、声が出てる。
「じょうず! いいね!」
「うまい! さすが!」
「がんばった!」
笑い声は自然にでた。
楽しかったね。
「はーい、おわります」
ジジババはおみやげにメンコを一枚ずつとハンカチ掛けをもらいます。
並んで、ひとりずつ順番にもらいます。
「わあ、ありがとう」
ようこさんが少しかがんで、そうすけくんをギュッと抱きしめた。
わたしも孫をギュッとしたい。
ほかのおじいちゃんおばあちゃんは、「ありがとう」とおみやげを両手で受け取っているばかり。孫をギュッとしたのはようこさんだけだった。
わたしはギュッとしたい緊張でかたまってしまった。うまく孫をギュッとできるかな。
「じいちゃん、はい。ばあちゃん、はい」
おみやげを渡してくれた孫が、握りこぶしをくりだした。
グータッチ!
「おじいちゃん、おばあちゃん、今日はありがとうございました」
みんなで挨拶。
「ありがとうございました!」
noteより転載(2018/9/20)
ラスト敬老会 山田沙夜 @yamadasayo
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