一読して、まず端正な文章の美しさに心を打たれました。流れるような文体のリズムが心地良く、浮かんで来る情景が色彩を伴って鮮やかで、途中何度も音読してその豊かさを味わいたくなります。一組の男女の離別を描いた作品ですが、その筆は抑制的で決して徒な感傷に溺れず、それでいて胸の奥に痛みと哀しみがすっと溶けるように流れ込んで来て、読了後、とても甘やかな切なさで満たされました。穏やかな初夏の一刻を水彩画でそっと閉じ込めたような、心に残る作品です。