やはり……っ!



 駿と未悠が子どもの頃、王家の紋章の入った衣服を身に着けていたという話を聞いたみなは、しんとなる。


 その中で、まず、口を開いたのは、やはり未悠だった。


「誰かが王家からとってきたんですかね……?」


「とってきたって。

 王宮に侵入できても、その辺に紋章つきの衣が投げてあるわけではないからな」


 そう言うアドルフに、

「クローゼットには普通にありますよ」

と未悠が言うと、タモンも、


「うちの塔にもあるかもしれないぞ」

と言う。


 ……血まみれのがありそうですよね、と思う未悠の側で、


「刺繍なんだろう?

 誰かが王家の紋章を真似て、自分で縫ったのかもしれないぞ」

と堂端が言う。


「まあ、そうかもしれませんが」

と未悠は駿の顔を見た。


 私はともかく、この兄は、この顔だけで、王家と関係がありそうに見えるんだがと思いながら。


 アドルフもそう思っているようで、沈黙していた。


 そんなアドルフの方を窺いながら、未悠はなんとなく、視界に入ったリコを見た。


 その視線を受けて、リコがヤンを見る。


 ヤンがリチャードを見る。


 リチャードがタモンを見る。


 タモンはまるきり他所を向いている。


 ぐるぐる回りかけていたみなの視線がそこで止まった、そのとき、


「では」

とラドミールが口を開いた。


「やはり、未悠とシャチョーは王家の縁者ということでは――」




 誰もが腹の中で思っていて口に出さないことを言ったラドミールは、シャチョーを見ながら、思っていた。


 では、この方も王になれなくもないということか。


 今、王位継承権のある若い男が少ないしな。


 王家の血を引いていて、この器の大きさ。


 王子になにかあったりしたときには、シリオ様は王位につくつもりはないようだし、可能性はなくもない。


 ごくり……とラドミールが唾を飲み込んだとき、


「あ」

とヤンがなにかに思い当たったように平和な声を上げた。


「では、未悠様は別にアドルフ様とご兄妹というわけではなく、なにか違う王家の縁者、ということかもしれないわけですよね?


 それで箱が開いたんですね。


 では、未悠様とアドルフ様が結婚されることになにも問題はないということですよね」


 それを聞いたアドルフがようやく明るい顔になり、


「そうだ。

 そうだなっ。


 未悠っ、これでお前と私の結婚を阻むものはなくなった!」

と喜び、未悠の手を握っている。


 だが、シリオ様では箱は開かなかった。


 ならば、未悠はシリオ様より王家の血が濃いということになるが。


 未悠は一体、何者なのか、とラドミールが思ったとき、


「待て」

と白いマントを翻し、シャチョーが手をにぎり合う二人の間に剣を突き出す。


「ならば、俺がお前たちの障害となろう。

 此処が、俺と未悠が結ばれず、そこの若造と結ばれるような世界なら。


 この俺が、この世界ごと滅ぼしてくれようぞっ!」

と高らかに宣言する。


 いや、そのセリフを言っていいのは、魔王タモン様だけでは……? とみなが振り返ったが。


 タモンはシャチョーに言いたいだけ言ったら、もう興味がなくなったらしく、シャチョーの話を聞いてはいなかった。


 厨房でせっせと料理を作っているイラークの妹の方を向き、


「やはり、強い香りの草があると、臭みも消えるし、肉の味の良さ引き立ちますよね~」

と言う彼女の話に頷いている。


 パッと見、若く見えても、長く生きているタモンは、その辺の長生きする老人と同じ感じにマイペースだ。


 いつの間にかシャチョーに腰の剣を盗られて、あれっ? あれっ? と腰回りを見回しているリコの従者の前で、ラドミールは拳を握る。


 やはり、この方こそ、私が王として仕えるのに相応しいお方っ、


 そう思いながら、シャチョーを見上げた。



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