めんどくさいので印をつけてください
その夜、未悠はミカと同じ部屋で休み、あとの連中は食堂で雑魚寝した。
アドルフもだ。
朝になって、アドルフはリコの従者に起こされていた。
「シャチョー、朝です」
駿も離れた場所で、ヤンに起こされている。
「アドルフ様、朝です」
……めんどくさいから、どっちかの額に印でもつけておきたい、と階段を下りてきながら、未悠は思っていた。
「では、また来る、未悠。
みなも気をつけて旅に向かうように」
とアドルフとラドミールが宿の前で馬に跨った。
「また来る、未悠」
と自分を見つめて言うアドルフに、未悠は、
いや、だから、この旅の意味は……?
と思いながら、それを見送った。
今度は野盗たちが旅立つようだ。
「元気でな。
いろいろとご馳走になった。
王子に
お前たちやお前たちの国の連中にはこの先、手を出さないと誓おう」
そう感謝の意を述べる野盗たちに、見送りに出たイラークが、
「うちの客にも手を出すなよ」
と言う。
もちろんでございます、と何故か野盗たちは、アドルフに対するより腰低く言った。
この世でもっとも強いのは、王様とかじゃなくて、美味しいものを作れる人なのかもな、と思いながら、じゃあ、と手を振り、未悠たちも旅立った。
駿が少し先を歩きながら、
「なにか昨日見たような光景だ」
と町並みを見ながら呟いているのが聞こえてきた。
それは、貴方が昨日、宿を行きすぎたからではないのですか。
そういえば、貴方、野盗たちにお金返してませんし。
っていうか、貴方も堂端さんもこっちに来ちゃって、会社はどうなっているのでしょうか、と思いながら、未悠は馬に乗って、ゆっくりポクポク進む。
隣町まで行くと、道端で老婆がアクセサリーなど売っていた。
それを見た駿が、
「昨日の老婆じゃないか」
と言う。
「何故、此処に居るんだ?
瞬間移動したのか」
「単に夜の間に動いたんでしょうよ……」
と堂端が言っていた。
くすんだ紫のマントを着、顔を隠すようにフードをかぶっている老婆が、口許だけで、ニィッ……と笑って言う。
「面白い人相の男よ。
暗雲は垂れ込めたかね?」
「まだだ」
と駿は答えたが。
ダラダラと進んでくる一行を見た老婆は言った。
「……私の占いは間違っていたようだ」
やけに重い口調で言った老婆に、情緒もなく駿が言う。
「間違っていたのなら、宝石を返せ」
だが、老婆はそんな駿の言葉は相手にせず、列の最後尾を見つめて言った。
「どうやら、お前にとっての暗雲は、前ではなく、後ろからやってきたようだよ――」
と。
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