ふたたび、旅に出ました
で、翌日、いきなり大神殿に向かい、出発することになったのだが。
「未悠、前回とは違うのです」
と言うユーリアに未悠は
「お前は私が次の妃となるものに渡す指輪を渡そうとした娘ですよ」
「……だから、もらってはないですよね」
そして、前回ももらいかけてましたよね、と色あざやかなカーテンの下がった美しい金の輿の中から、未悠はユーリアを見下ろして言う。
馬車では行かないと行ったら、何故かインドのお姫様が乗るような輿に乗せられたのだ。
……死ぬほど目立つんだが。
山でも越えようものなら、すぐにも強盗に襲われそうだ、と未悠は思ったが。
リチャードが仕切る一行を見回し、まあ、こっちが山賊みたいだから、襲われないか、と思い直す。
そんな未悠の輿の横で、ユーリアが主張する。
「いいから、しのごの言わずに、輿で行きなさいっ。
アドルフの子供がお前の腹に居たらどうするのですっ」
「まだなんにもしてません……」
とうっかり言って、
「それはそれでどういうことなのっ?」
とキレられる。
「昨日、一晩あったでしょうっ?
結婚式を目前にして、離れ離れになると言うのにっ。
そんな盛り上がらないカップルって居るのっ?」
……はい、此処に、王妃様、と未悠は思っていたが、口に出したら、更にややこしくなりそうなので黙っていた。
お世継ぎ懐妊という大事業の前には、婚姻前の不純異性交遊はどうなんだとか言う話はどうでもいいらしい。
「でも、そういえば、王妃様。
何処の世界の人間だかわからないような私の子でいいのですか?」
と未悠は訊いてみたが。
「いいのです。
お前の子なら、とりあえず、顔は綺麗でしょう。
女の子なら、私は私と
ユーリアの頭の中には、すでに愛らしい孫が居るらしく、夢見るようにそう言ってくる。
「男なら?」
と言うと、ユーリアは沈黙した。
男なら着飾れないのでいらないのだろうか。
っていうか、世継ぎがいるんじゃなかったのか?
この国は女の世継ぎでもいいのだろうか?
と思う未悠を乗せ、輿は出発した。
とりあえず、城に残ることになったアドルフは、ユーリアとは離れ、城の入り口の階段途中から一行を見送っていた。
そこからの方が遠くまで見送れるからだろうか、と思って、ちょっとキュンと来てしまう。
……まあ、またすぐに追いかけてきそうな予感がするが、と未悠が思ったとき、輿のすぐ側に居たリコが笑って話しかけてきた。
「母上みたいだ」
「え?
母上が、盗賊の父のところに身を寄せていた私の許を訪ねてくるとき、そうして、輿に乗せられ、運ばれていた」
子どもだけじゃなくて、妻もそういう扱いなのか、と未悠は思う。
「先導のものが、花を撒き散らしながら進む後ろから、母上の輿がやってきていた」
「愛されてるんですね、お母様」
と未悠は微笑んだが、リコの後ろを歩いているタモンは、今の話も聞いてはいなかったようで、ただひたすら呪文のような言葉を繰り返している。
「休まないか?
休まないか?
なあ、休まないか?」
いや……、まだ出発したばかりなんですけど。
貴方、何故、ついてきましたか。
と思ったが、この輿を担いでいるヤンも死にそうになっている。
後ろはリチャード一味なので、軽々担いでいるが、前はヤンなので、輿が前に傾いてしまっている。
「おい、ヤン。
代わるぜ」
とリチャード一味その2がヤンの肩を叩くが、ヤンは、
「いいえ、頑張ります。
私は、城の衛士なのですから。
未悠様をお守りしなければ」
とブツブツ言いながら、前のめりに歩く。
倒れるときも前のめり……。
いい言葉だが、こんなときはどうだろう、と思ったとき、視界にそれが入った。
「あ、じゃあ、そこで止めてください。
休憩しましょう」
と未悠は前方を指差し、笑って言った。
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