目が悪くなったのかと思った


 未悠はアドルフの部屋へと手を引かれ、連れて行かれた。


 階段を上がりながら、


 何故、みんなの前で手とか握るんですか。

 照れるではないですか、

と思いながらも、素直について上がる。


 部屋に入った途端、未悠を振り向き、アドルフは言ってきた。


「何故、お前はひとところに、じっとしていられないのだ。

 私と居るのが嫌なのか」


「いえ」

と未悠は言った。


 改めて、駿とアドルフを見比べて、やっぱり、アドルフの方が好きかな、と思ったところだったからだ。


「でも、いろいろとごたごたしたままですし。

 王子のためにも、ハッキリさせておきたいんです」

と未悠は言ってみたが、


「嘘をつけ」

と言われる。


「お前はただ、なにもせず、城に居るのが嫌なんだろう」


「まあ、そうですね。

 この先、ずっと城でおとなしくしてろとか言われるのは嫌かも……」


 素直にそう白状し、そういう未来を想定してみる。


 本当に暇そうだ。


「あのー、城の中で、探偵やってもいいですか?」

と言い終わらないうちに、


「行ってこい、大神殿まで」

とアドルフに肩を叩かれた。


「まあ、お前も王妃にでもなれば、ウロウロできなくなるだろうからな」

と言い、頷くアドルフに、


 貴方には見えてはいないのですか。

 あの一向に城にとどまらない貴方のお母様が、

と未悠は思っていた。


 アドルフはそんな未悠を見下ろし、


「……旅に出るのなら、その前に、私になにか言うことはないか」

と言ってきた。


 なんだろう。


 まさか、私に好きと言えとか?


 いやいやいや、そんな恥ずかしい、と思う未悠だったが。


 ……言ってくれるのか?


 言ってくれないのか?


 どうなんだ、未悠っ、と窺うアドルフが可愛く、思わず、笑ってしまった。


 そして、言った。


「行ってきます、王子。

 なにかお土産買って帰りますよ」


「いや……いい。

 なんか物凄いもの持って帰りそうだから」

とアドルフは眉をひそめる。


 それで未悠の言葉は終わったと思ったらしいアドルフはそのまま行こうとした。


「王子」

と未悠は、アドルフの腕をつかむ。


「行ってきます」

と言って、そっとその頰に軽くキスした。


「……未悠」

とアドルフが驚いたように未悠を見たとき、派手に部屋の扉が開いた。


「未悠っ」

「未悠っ」


「出発の準備をしろっ」


「なにしてるんだっ。

 スケジュールが押してるぞっ」


 うわ……と未悠は振り返り、思う。


 左の扉をシリオが、右の扉を堂端が開け、二人同時に同じ顔、同じ声で怒鳴ってきたのだ。


「……目が悪くなったのかと思った」

とアドルフが呟く。


「私も、乱視になったのかと思いました」


 乱視でサラウンド……。


「メガネかけたら、飛び出す映像になりそうで怖いです」


 ……飛び出してこないで、と未悠は口やかましい二人を見ながら思っていた。




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