そういえば、此処に居る

 


 王妃の部屋を出た堂端が未悠に言ってきた。


「考えてみれば、お前だって飛んでるんだから、双子の片割れだけが飛ぶわけじゃないよな」


「そうですね」

と呟いたあとで、ふと気づき、未悠は訊き返す。


「今、自分を削除しましたね、堂端さん」


 アドルフと双子かもしれない社長だけでなく、堂端は自らをも数には入れなかった。


「もしかして、シリオ様と双子なのではと思ってます?」


「そりゃ、あれだけ似てればな」


「アドルフ様もシリオ様も双子だったとするなら、結構、王族の系列に、双子、産まれてますね~」


「双子が産まれるたびに、俺たちの世界に流してるんなら、この世界の人間が意外とたくさん来てるのかもしれないな、俺たちの世界に――」


 そう言いかけ、堂端は笑う。


「まあ、それが事実なら、俺たちの世界って言葉もおかしいか」

と。


 そうなのだが、寂しいな、と思っていた。


 今まで自分たちが居た世界が、自分がもともと所属していた世界ではないなんて。


 だが、まあ、生まれ育ったのがあそこなのだから、あっちが自分の世界で間違いないはずだ、と未悠は思う。


「まあ、もしかしたら、昔から、結構たくさん、我々の世界に飛んでいたのかもしれませんね。

 それで、その子孫が花畑に行ったとき、なんらかのきっかけにより、こちらの世界に飛んでいるとか」


 その、なんらかのきっかけのひとつは、もちろん、あのパチン、ではなかろうか。


 タモンやシリオがパチンとしたときに、この世界に生じる空間の振動。


 それもまた、この現象の原因のひとつなのではと思うのだが。


「まあ、よくはわからないが。

 当時のことを覚えている人間をまず探そう。


 王子が双子だったかどうか」


 職場と変わらぬ感じに堂端がてきぱきと話を進めてくれる。


 堂端さん、すぐにこの環境にも適応しそうだな、と未悠は思う。


 あっという間に頭角を現して。


 将軍はわからないが、参謀になるとかならありそうだ、と未悠はうっかり思ってしまう。


 ……いやいや。

 堂端さん、今は一時いっときの楽しさに流されているようだが。


 あちらの世界に帰らないと、あとで、いろいろと困ることがあるのでは……。


 というか、いきなり秘書がふたりも消えては、さすがの社長も困っているんじゃなかろうか。


 困ってなかったら、それはそれで嫌だな、と思ったとき、いつもなにをしているのか、城内をフラフラしているタモンが現れた。


「タモン様」

と未悠が呼びかけると、横から、堂端が、


「おお。

 社長が倒そうとした魔王か」

と言ってくる。


 ……自分も倒したそうだ。


 いや、この女たらしの魔王様は、剣で切ったら、倒せるとかいう代物ではないようなので。


 RPGのようには倒せないと思うが。


 でも、そういえば、誰が眠っているタモン様を刺したのだろうな、と思いながら、未悠は、タモンに訊いてみた。


「タモン様。

 王族の双子に関する言い伝えって、ご存知ですか?」


 巫女様は、いにしえの言い伝えなので、よくわからない、と言っていたらしいのだが。


 そういえば、今、此処に生きた、いにしえの人が居る、と思い、未悠は訊いてみた。





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