お前にひとつ、言っておくことがある

 


 堂端はアドルフたちに任せ、未悠は王妃の間の扉を叩いた。


「ああ、未悠、取り乱して悪かったわね」

と中に入ると、すぐにユーリアは言ってきた。


「いえ……」


 いえ、もう慣れてます、という言葉はとりあえず、吞み込んでみた。


「まあ、貴女たちにとっては朗報ね。

 王は貴女のことは知らないと言っていたわ。


 貴女とアドルフとは兄妹ではないのでしょう。

 さっさと結婚なさい」


 そうユーリアは言ってくる。


 ちょっと不思議そうに彼女を見ていると、

「私が信じられないだけなのよ。

 王はきっと真実を語っているのでしょう。


 ただ、そんな娘は知らぬと言ってくれればよかっただけなのに。


 私が浮気しようと自分はしないとか。

 子どもの頃からお前だけを愛しているとか、余計なことを言うから。


 タモン様に長く心を奪われ、望まぬ結婚だったと思い続けてきた私など、そんな風に思ってもらう資格ははないのにと思ったら、なんだか王の言葉が信用できなくなったのよ」

とユーリアは言う。


「あの……なんだかのろけられてるだけのような気がしてきましたよ」

と言った未悠を苦悩するフリをやめたユーリアが少し笑って見た。


 ……もしかして、真正面から王に愛していると言われて、照れて走って帰ってきただけなのだろうか。


 女子高生のような人だ、と未悠は思っていた。


「まあ、結局、貴女が何者かは、よくわからないのだけれど。

 あれだけアドルフが貴女をと望んでいるのです。


 結婚なさい、未悠。


 王もアドルフの好きにさせよと言っています」


 こっちの意志はどうでもいい感じに言われたのが、ちょっと気になるが。


 とりあえず、結婚の許可は下りたようだった。


「万が一、後から、貴女が王の子どもだったとわかっても、結婚して、子どもも出来ていれば、さほど問題はありません。

 隠蔽してしまえばよいのです」


 ……親子だな、と未悠は思った。


 なんだかんだ言っていても、最終的には、アドルフと同じ発想になるようだった。


 ユーリアは未悠の許に来ると、先程、エリザベートを抱き締めていたのと同じように抱き締めてくる。


「幸せに、未悠」


「あ、ありがとうございます」


 改めて、そんなこと言われると照れるな、と未悠は思っていた。


「さっき、私がすごい勢いで城に戻ってきたとき、アドルフは咄嗟に貴女をかばって、前に出てたわね」

と言って、ユーリアは笑う。


「そうですね……」


 未悠もそのことには気づいていた。


「あのぼんやりした息子に好きな相手ができるとか、ちょっと不思議だけど。

 アドルフをよろしくね、未悠」


「ありがとうございます、王妃様」


 私も戻ってきたことだし、式の準備を始めましょう、とユーリアに言われ、未悠は部屋を出た。


 ちょっとホッとしかけたが、すぐに、わっ、と声を上げる。


 目の前に、シリオが立っていたからだ。


 いや……シリオではないか。


 そっくりな顔で、同じように謎のマントを羽織っていたが、その男は何処かで見た眼鏡をかけていた。


「堂端さん?」

と呼びかけると、どうやら、シリオに服を借りたらしい堂端は、


海野うんの

 お前にひとつ言っておくことがある」

と言い出した。


 ……なんですか、その口調。


 ちょっと聞きたくない感じなんですけど、と身構える未悠に、堂端が言ってくる。


「お前、俺は此処になにも関係ない人間なのに、飛んできたんじゃないかと言ったが。

 そういえば、俺もお前たちと一緒で、今の親の実子じゃないんだよ」


「え……」


「俺もお前や社長のように、この世界と、なにか関係のある人間なのかもしれない」


 いや、私たちも関係あるかはわからないんですけどね、と思ったあとで、未悠は振り返り、王妃の間の扉をもう一度、叩いた。


「王妃様、すみませんっ」


 中に入れてもらい、ユーリアに頼む。


「あの箱をもう一度貸してください。

 確かめてみたいことがあるんです――」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る