お帰りになりました


「それにしても、堂端さんまで飛べるなんて。

 この世界に関係ない人間もこっちに飛べるものなんでしょうかね?」

と未悠が話していたとき、いきなり外に馬や馬車がやってくる音がした。


 襲撃っ?

と思う勢いだったが、扉を開けて流れ込んできたのは、王妃の一団だった。


「どうされたんですか? 母上」

といつの間にか、未悠の前に立っていたアドルフがユーリアに訊く。


「私が王の許に進軍しているのが王の耳に届いて、王が途中まで出てきたので、早く話ができたのです」

とユーリアは言った。


「それはよかったですね」

と言ったあとで、


「え? 進軍?」

とアドルフは訊き返していたが、未悠にはわかる。


 女にとっては、進軍に等しい行為なのだ。

 夫に隠し子が居るかどうか確かめに行くということは。


「未悠は王の子ではないのかと王に問い詰めました。

 すると、王はっ」


 王はっ?


「王は、そんな娘は知らぬと申すのですっ」


「……よかったじゃないですか」

とアドルフは、ホッとしながら言ったようだった。


「よくありませんっ。

 じゃあ、なんなのですっ、この娘はっ」

とユーリアは未悠を指差した。


 いや、なんなのです、と言われても、と思う未悠の前で、ユーリアは主張する。


「何故、王の子でもない娘が、王族しか開けられない箱を開けられるのですか」


 それそれ、そこが謎なんですよね~と思っていると、ユーリアは歌劇団か? というくらいの身振り手振りを加えながら、言ってきた。


「王は言うのです。

 お前が浮気しようとも、私が浮気することなどない。


 私が愛しているのは、お前だけだと!」


「素晴らしいじゃないですか、王様」


 自分の夫にもそのようにあって欲しいものだ、と思いながら、未悠は言ったが。


「未悠、騙されては駄目です」

とユーリアは未悠の手を握って言う。


「口先だけなら、なんとでも言えるもの。

 王がなんと言おうとも、私は信じられませんっ」


 いや、じゃあ、何故、貴女、わざわざ訊きに行きましたか……という顔を全員がしていた。


「だいたい、王の隠し子でないと言うのなら、なんなのですか、この未悠はっ。


 そして、あの者はなんなのですっ。

 シリオにそっくりですが、今度は何処の隠し子ですかっ」

と堂端を指差し、ユーリアは言う。


 言いたいだけ言って、大きく息を吐いたあと、ユーリアは、

「私はもう疲れました。

 寝ます」

と言って、階段を上がっていこうとした。


 だが、その階段途中に居たエリザベートに気づき、ユーリアは足を止める。


「ああ、エリザベート。

 いい人が見つかって、よかったわね。


 おめでとう、おめでとう。


 本当によかったわ。

 男には気をつけて。


 信用しちゃ駄目よ」


 どんな祝いの言葉だ、というようなことを言いながら、エリザーベートを抱きしめたあとで、ユーリアは去っていった。


 全員が呆然とその姿を見送る。


「……で?」

とまだ階段の方を見たまま、アドルフが言った。


「俺たちは結局、兄妹なのか?

 違うのか?


 そして、あの人は――


 一体、なにをしに行ってきたんだ……?」


 まあ、そこは追求しないであげてください……と同性なので、気持ちがわからなくもない未悠は、苦笑いしながら思っていた。






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