これってハッピーエンドだろ


「時間の流れが違うのか」

と言った堂端は、


「じゃあ、お前、老けるだろ、桃太郎みたいに」

と言い出す。


「浦島太郎ですよ……」


 どうやら、仕事では切れ者なこの男も、昔話には明るくないようだ、と未悠は思った。


「まあ、戻らなきゃいいだけの話だよな。

 お前はこっちの世界で、好きなのに、結ばれなかった男とそっくりな王子様と結婚して、ハッピーエンド。

 いいじゃないか」


 ひっ、と未悠は息を呑む。


 ハッピーエンドとか言いながら、今のセリフで地雷を踏みまくりですよ。


 そして、その一言により、ハッピーエンドでなくなりそうです、と未悠は斜め後ろに立つアドルフの気配に怯えていた。


 今の堂端の言い方だと、自分がアドルフを峻の代わりにしているように聞こえてしまうからだ。


 いやいやいや、逆ですよ、と未悠は思っていた。


 社長そっくりの顔だったから、最初、この人に抵抗があったんですから、と。


「で、俺はこの世界で、王となった社長の下について、将軍になる。

 それもまた、ハッピーエンドだな」


「いや、何処もハッピーエンドじゃなくないですか?」


 将軍職は、今より忙しそうだし。


 戦争とか始まったらどうするんですか、と訴えてみたのだが、そんな未悠の話を堂端は聞いていない。


「海野、社長を呼んでこい。

 お前が呼んだら、来るだろう」


「いやいやいやいや。

 話ややこしくなるんでっ」


 第一、貴方、今、王子様と結婚して、ハッピーエンドだろと言ったではないですか。


 あの人、この地に根を下ろしたら、すぐにでも侵略してきそうですよっ、と未悠は思う。


 ていうか、とチラとアドルフを窺う。


 あっちとこっちで時間の流れが違うので、一概には言えないのだが。


 アドルフ王子より、社長の方が年上のようなんだが。


 社長と私が兄妹で、私が王の子どもなら。


 社長も王の子どもということになる。


 では、王妃の産んだ子ではないとはいえ、第一王子は、社長ということになるのではないか。


 そう思っていたが、口には出せずにいた。


「っていうか、堂端さん。

 なんで社長を頼るんですか。


 自ら国をおこそうって気はないんですか」


「海野。

 人には向き不向きというものがあるんだよ。


 俺はトップに立つ人間ではない」


 こういうところは、顔だけでなく、シリオとそっくりだな、と未悠は思っていた。


「それにしても堂端さん。

 いつも気持ちよく、きっちり仕事をこなされてるように見えてたのに……」


 こんなに異世界に執着して帰りたくなくなるなんて、実は疲れていたのだろうか。


「意外と貴方の方がするんですね、現実逃避」


 仕事でミスが多い私よりも、と未悠は呟いた。


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