海野、城だっ!

 

 ともかく、シーラに堂端を連れ帰られて監禁されても困るので、シーラごと城に連れて帰ることにした。


 城で二人を説得しようと思ったのだが、城を見た瞬間、堂端の目が輝いてしまった。


海野うんの、城だっ」

「そうですねえ」


「RPGのようだなっ」

「そうですかねえ……」


 どうもやはり、女とは感覚が違うようだな、と未悠は思っていた。


 この重厚な質感もゴージャスなキラキラ感も、なにも堂端の目には入っていないようだ。


 なんとなくだが、彼の脳内では、古いゲームのドット絵みたいになっている気がした。


 そして、城内に入った堂端はリチャードと出会う。


 むき出しの太い腕を組んだリチャードは、堂端を見、

「ほほう。

 お前がシャチョーのところの将軍か。

 ひとつ、お手合わせ願おうか」

と豪快に笑って言ってきた。


 お手合わせ願おうとか、無謀なことを言われているのに、堂端は、リチャードの逞しい身体つきを見て、無邪気に喜ぶ。


「海野、勇者だ!」


「……いや、どっちかと言うと、ならず者ではないですかね?」

とうっかり失礼なことを言ってしまったあとで、


「っていうか、私、こんなに楽しそうな堂端さん、初めて見ましたよ」

と未悠は言った。


 それにしても、城内がまた不穏な感じになっているような……と未悠は心配する。


 まあ、また素敵な方が、といった感じに女性陣が堂端を見ていたからだ。


 そして、そんな彼女たちをシーラが睨んでいる。


「シリオと同じ顔なのに、何故なんでしょうね……?」

とアドルフに言っていると、堂端がアドルフを見上げ、


「そういえば、この王子が、社長と似ているという王子か。

 あまり似てないじゃないか」

と言い出した。


「いや――

 残念ながら、そっくりですよ」

と未悠は言ったのだが、


「そうか?

 この王子の方が遥かにやさしそうだが」

と堂端は言う。


 ……貴方の頭の中の社長が、どんな感じなのか、気になります、と駿の妹かもしれない未悠は、ちょっぴり兄を心配して思っていたのだが。


 そんなことはおかまいなしに、職場で異世界の話を聞いてくれたときには、死ぬほど胡散臭うさんくさげだった堂端が、夢見るような顔で言ってくる。


「海野。

 この世界は素晴らしいな」


「あのー、どの辺がですか?」

と訊くと、堂端は吹き抜けのようになっている一階ホールから城内を見回し、言ってきた。


「だって、すべての物が私たちの世界より進んでいるじゃないか!」


「後ろに下がってってると思いますよ?」


 せいぜい中世ヨーロッパくらいな気がするんですが、

と思う未悠を見下ろし、堂端は言う。


「だって、このドレスもすごい技術じゃないか。

 お前でも、そこそこ見れるぞ」

と言う彼の目は、未悠の、コルセットで押し上げられた胸許を見ていた。


 はあ、なにやら、まるで胸があるかのように見えますからね、と思いながら、未悠は言う。


「でも、現代の方がもっと引き上げられますよ」


「じゃあ、引き上げろよ」


「いや、所詮は偽物なんで。

 やりすぎるとむなしくないですか?」


「俺が本物を見ることはないんだから、関係ない」

と堂端は、もっともなことを言ったあとで、


「でも、そうだな。

 偽物に意味はないかもな」

と言い出した。


「俺も本物の将軍になりたい。

 それには、お前の言う通り、王を呼んでこなければな!」


「いや、呼んでこいとは言ってませんよ……」


 っていうか、明らかに社長のことですよね? それ。


 さっきの社長に怒られるから帰らないって話と矛盾してるんですが、と思いながら、未悠は堂端が帰りたくなるよう、説得を試みる。


「あの~、堂端さん。

 あっちとこっちで時間の流れ、違うんで。


 だから、戻っても、たいした時間、経ってないと思いますよ?」






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