なにやら偉そうな感じになってきた
「やってきたのは、シャチョーの
と未悠が言うと、アドルフは、
「すると、将軍か」
と言った。
将軍。
なにやら偉そうな感じになってきたな、と思いながら、案内しろ、というアドルフにちょっと困る。
「実は、シーラがその堂端さんを生け捕りにしてまして」
「……あの娘は将軍を生け捕りにできるのか」
ちょっと感心したようにアドルフが言う。
いやいや、そうではなくてですね、と思ったとき、
「将軍と聞こえたが」
と何処からともなく、リチャードがやってきた。
「何処の将軍だ? 強いのか?」
と機嫌がいい。
「此処の将軍は私が手合わせ願おうと言っても、いつも消えてしまうからなっ」
と言っている端から、今、こちらに来ようとしていたらしい将軍が、なにか用事があるフリをして、すうっと居なくなってしまった。
まあ、逃げるが勝ちとも言いますもんね……と筋骨隆々としたリチャードを前に、未悠は多少、同情気味に思う。
それにしても、堂端さんと戦う気満々のようだが。
堂端さんでは、このごつい指先で、ピンと跳ねられて終わりだと思うが。
そのとき、
「なんの騒ぎだ。
暇だから、私も行ってやろうか」
とシリオも、のこのこやってきた。
未悠は、思わず、
「話がややこしくなるから来ない――
ああっ、やっばり、ちょっと来てくださいっ」
と言ってしまう。
堂端とシリオと見比べて同じ顔だと気づいたら、シーラも目が覚めるかもしれないと思ったのだ。
未悠たち一行が森に戻ったとき、堂端はまだ縛られていた。
シーラは彼を持って帰る、と主張していたようだが、賢明な部下が止めていたらしい。
っていうか、シーラ。
堂端さんに連れ去って欲しかったんじゃなかったのか。
自分が持ち帰ってどうするんだ……と思ったとき、
「みーはーるーっ」
と王子を連れてきた未悠をシーラがキッと睨む。
ひい。
「わ、私が連れて来たんじゃないしっ」
と言い訳をしていると、堂端が、
「お前、この世界では王子の婚約者なんだろ?
なんで、王子妃になる女が威嚇されている?」
ともっともなことを言ってくる。
その立場を笠に着たいわけではないが。
今だけは、もっと言ってやってください、とレースで巻き毛の暴れ馬みたいなシーラに怯えながら思う。
堂端は、シリオを見て、おや? という顔をしたが、シーラは無反応。
似ているということにさえ、気づいていないようだった。
突然現れた美形の男が自分を連れ去ってくれるという妄想が暴走して、真実が見えていないのかもしれないな、と苦笑いしたとき、ずい、と前に出たアドルフが縛られている堂端に向かって言った。
「お前がシャチョーの
ショーグン……。
堂端が黙った。
そして、
「はい」
と言う。
えっ? はい?
「……
「はい」
「なんだろう、同じ社長の腹心の部下でも偉くなった感じだ、秘書よりもっ」
「そ、そうですかね?」
と適当な返事をしたのだが、堂端は、
「海野、俺はこのまま此処に居るっ」
と言い出した。
「ええっ?」
「どうせ、社長のことだ。
帰るのが遅れたら、俺なんぞ、サッサとクビにして、新しいやり手の秘書を雇うに違いない」
「ま、やりそうですけどね。
即決即断の人なんで。
でも、堂端さん、仕事できるし」
そんな簡単に切ったりはしないのではないかと思ったのだが、堂端は、
「俺程度の奴なんざ、山ほど居るよ」
と言う。
その冷静な判断力こそ、なかなかない貴重なものだと思うのだが。
だが、堂端は、
「海野。
俺は、此処でショーグンと呼ばれたい」
と言い出した。
……なにか変なスイッチが入ってしまったようだ、と未悠は思う。
男の人って、いつまでも、少年のようなところがあるというか。
ぶっちゃけ、子どものころ見てた漫画とかアニメを引きずっているというか。
どうも将軍というものになって見たかったようだ。
「でも、あのー、王様連れて来なきゃ、将軍にはなれませんよ」
未悠がそう言うと、堂端はなにか考え始めた。
やばい。
無駄に賢いこの男に、なにか余計なことを言ってしまったようだ、と未悠は口に出してしまったあとで、気がついた。
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