やはり、お前の仕業か~



海野うんの、やはり、お前の仕業か~」


 いやいやいや、なんでですか~と木に縛り付けられたまま、いきなり睨み上げてくる堂端を見ながら、未悠は思う。


 どうやら、堂端は、森に入り込んだシーラを追ってきた従者に、シーラの命令で縛り上げられたようなのだ。


「会社で幾ら威張ってても、こういうとこに来たら駄目ですねえ。

 っていうか、なんで私の仕業になるんですか」


「おかしなことが起こったら、お前だ」


 何故、シーラと同じことを……と思いながら、未悠は訊いた。


「そもそも、どうして、此処に居るんですか、堂端さん」


 すると、堂端は、

「いや、お前を追って、花畑に入ったら、パチン、と音がして」

と言う。


 誰だ、最悪のタイミングで 鳴らしやがったのは……。


 っていうか。


 パチンと音がしたら、誰でも飛ぶものだったのか?


 じゃあ、社長も私も実は、この世界とはなんの関係もないとか?

と考えながら、


「ともかく、パチンしてあげますから、帰ってください」

と未悠は言う。


 これ以上、堂端が居ても、厄介なことになるだけのような気がしたからだ。


「だから、なんなんだ、あのパチンは――」

と堂端が言いかけた瞬間に、未悠はもう指をパチンとしようとしていた。


 めんどくさいことを言われないうちにと思ったのだ。


 だが、そんな未悠の手を止めたものが居た。


 ふんだんなレースで飾られた袖口から覗く白い指先。


「駄目ですわ、未悠」


「へ? シーラ?」


 なんで、と思う未悠の手をつかんだまま、シーラは、未悠を別の木の近くまで連れていく。


「あの方をお帰ししたら、許しませんわ」


「……あの方?」


 シーラは、チラと堂端を見、


「あんな素敵な方、見たことありませんわ」

と頬を染めて言い出した。


「いや、あれ、シリオと同じ顔……」


「きっと、これは運命ですわ!」


「聞いて~、人の話~」


 っていうか、あんたは運命の人を縛り上げるのか、と思っていたのだが、シーラは聞いていない。


「初めて見たときわかったんですの。

 きっと、この方が私を此処から連れ去ってくださるんですわ」


 ……現実逃避か。


 異世界の人も現実逃避するのだな、と思いながら、ちょっとシーラが可哀想になって、黙って聞いていた。





「何処に行っていた」


 未悠一人で城に戻ると、仁王立ちで待っていたアドルフがそう言ってきた。


「……犬笛が鳴ったので、ちょっと」

と言って、


「何故、犬笛でお前が出かける」

ともっともなことを言われてしまう。


「子供なら聞こえたりもしますよ?」


 そう反論してみたが、

「お前は、子供じゃないよな?」

と上から下まで見て、確認するように言われた。


 ええ。

 ない胸も多少あるかのように、コルセットとドレスでうまい具合やっていただいてますしね……。


「実はその……。

 私の世界から、少々、厄介な人がやってきまして」

と未悠は白状する。


「シャチョーか?」


「いや、シャチョーの部下です」


「送り返せ」


 即行言ってくるアドルフに、いや、そうしたいのは、やまやまなんですけどね、と未悠は思っていた。






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