やっぱり、目はくもっています



 駄目ですわ。


 やっぱり、無理。


 覚悟は決めたはずでしたのに。


 そんなことを思いながら、シーラはずんずん森の中を歩いていた。


 いや、本人は森に入り込んだつもりはなかったのだが。


 バスラーに見つからないように逃げているうちに、いつぞや、未悠が出入りしていた生垣の外へ出られる場所を通り抜けてしまっていたのだ。


 あ、まずいかな、と思わないこともなかったが、足は止まらなかった。


 名家に産まれたからには、こんな未来もあるかもと想像してはいた。


 それでも、やはり、絵物語に出て来るような素敵な男性と、みんなに祝福されながら結婚する日を夢見ていたのに。


 諦めたつもりだったが、未悠がアドルフとイチャついているのを見ていたら、無性に、うらやましくなってしまったのだ。


 まあ、アドルフ王子は私の好みではありませんけれど。


 ああいう風に素敵な方と両思いになるというのは乙女の夢ですわね。


 未悠はなんだかんだ往生際悪く言ってはいるが、傍目で見ている限りには、似合いのカップルだ。


「ああ、どなたか素敵な殿方が現れて、私を連れ去ってくださらないかしらっ」


 思わず、そう声に出して言ったとき、鬱蒼とした木々が途切れた場所に出ていた。


 なんて綺麗な花畑。


 思わず、足を止め、森の中の、そこだけ、ぽかりと木々が抜けたような空間を見つめる。


 そこには、色とりどりの花が咲き乱れていた。


 そのとき、ぱち……ん、となにかの音が響いた。


 すると、そこにいきなり、ふっと人影が現れる。


 その人物は空を見ていた。


 それから、少し、おや? という顔をして、周囲を見回す。


「……シバザクラではない。

 此処は何処だ?」


 その男は、すっきりとした端正な顔に、細いフォルムの眼鏡らしきものをかけていた。


 男は、こちらに気づくと、山には不似合いに着飾った自分を上から下まで、マジマジと眺めたあとで、眉をひそめて言ってきた。


「……テーマパークか?」





 

「あれっ?」

とアデリナと話していた未悠はキョロキョロと上の方を見た。


「今、パチンッて聞こえなかった?」


 そう言ったが、誰もが、

「いいえ」

と不思議そうに言う。


「私は鳴らしてはおらんぞ」

と言いながら、タモンがシリオと共に現れる。


 きゃっ、と少女たちがタモンを見て声を上げた。


 ……何故だろうな。


 シリオもかなりいい顔をしていると思うのに。


 何故、女子はタモン様の方にばかり……。


 性格的には、シリオの方が――


 いや、どっちも問題があるか、と思いながら、未悠は、女の子たちの二人に対する反応を見ていた。


「タモン様にあって、シリオにないものってなにかしら」


「思いっきり口に出して言うな、未悠よ」

とシリオに言われる。


 得体の知れない格好……はどっちもだし。


「男らしさ、は、どっちもないかな?

 アドルフ王子にはあるけど」

と言って、アデリナに、


「えっ?」

と二度見された。




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