まあ、腐っても、美人なので
未悠が下に下りると、少女たちはまだ、可愛らしい化粧品をみんなで眺めていた。
その輪に居たアデリナに、
「はい」
と後ろからカラになったビニール袋を渡す。
「ありがとう、未悠っ。
いいの? こんないい物をもらってしまって」
と感激されて、申し訳なくなり、アデリナの肩をぽん、と叩く。
「今度、新品のをホームセンターで買ってくるよ」
と言うと、
「ホームセンターってどんなところなの?
こんな素敵なものがたくさんあるなんて、きっと夢のような場所ね」
と先程から聞くホームセンターという言葉に、どんな宮殿のような場所を思い描いているのか、らしくもなく、瞳をキラキラさせて言ってくる。
……まあ、品物はたくさんあるから、連れてったら喜ぶかな、と思いながら、未悠はアデリナに訊いた。
「アデリナ。
王位継承権があるのって、アドルフ王子とシリオの他は誰が居たんだっけ?」
「どうしたの? 急に」
と言いながらも、
「そうねえ。
今は王家の血筋の方は少なくなっているから、お二人の他は、王よりご年配の方だけよ」
と言ってくる。
そう、と答えたとき、ふと、タモンが頭に浮かんだ。
めちゃくちゃ王家の血が濃いけど、あの人、今の王様よりご年配の方、に入るからなあ、実際のところ。
さっき、なにかが引っかかったんだけど、気にすることないか、と思い、
「眺めてないで、使ったら?」
と少女たちの輪の上から、可愛い色のリップをひょいと取り、蓋を開けて見せる。
「もったいないですわ、未悠様。
こんな素敵なもの」
「……買ってきてあげるよ、今度、ひとり一個ずつ。
ごめん。
名前をなにかに書きつけておいて。
届けさせるか、持っていくから」
と言って、ますます滅相もないと言われてしまう。
「貴女、どれだけお気軽な人なんですか。
簡単に持ってくとか言わないでくださいよ」
いつの間にか後ろに居たラドミールが言ってくる。
「貴女に好き勝手に動かれるたびに、我々はハラハラするんですから」
しまいには、私が異世界まで買いに行ってきましょうか、とまで言ってくる。
「ラドミール。
実は行ってみたいとか?」
「私がですか?
そんなくだらない」
はっ、と笑うラドミールの顔を彼の従妹のアデリナと、二人で、じっと見つめる。
「本当ですよっ」
とラドミールが叫んだとき、気がついた。
「あれっ? シーラは?」
シーラが居ないから、遠慮がちな子ばかり残って、化粧品の蓋が開いていなかったのだと気がついた。
「バスラー様の気配を感じて逃げたのよ」
とアデリナが肩をすくめてみせる。
あ、そう、と未悠は苦笑いした。
もうヤケになって、腹をくくってるようなこと言ってたわりには、結局、逃げ回ってるのか、と思い、笑ってしまう。
ちょっと可愛いところもあるな、と思ってしまったからだ。
その頃、堂端は山の中に居た。
あのあと、社長の用事で外に出たのだが。
もう居ないと思っていた未悠がコンビニから出てくるのを見たのだ。
未悠は、まだ買い物に手間取っていたようだった。
今日は仕事も特には忙しくない。
外に出たのも、時間に縛られる用事ではなかったので、ほんのちょっと興味が湧いて、未悠の後をつけてみたのだが、途中ではぐれてしまった。
こんな見知らぬ港町まで来たのに、とちょっと悔しくなり、帰ればいいのに、つい、町の人間に未悠を見なかったか、訊いて歩いてみた。
すると、腐っても美人。
未悠の特徴を話すと、田舎町のこともあり、かなりの人が覚えていた。
あいつ、小学校のときの夢は探偵とか社報にくだらないことを書いていたが、探偵にはなれんな。
こんなに人に覚えられてちゃ、尾行とかできんだろうが、と思いながら、此処まで来たので、ヤケクソで未悠が登って行ったという山を登る。
確認したら、バスの時間まで三十分くらいあったせいもある。
用事があったのは、ちょうどこの先の街だ。
帰りは特急に乗って帰ろう。
先方で話が弾んだとか言い訳して、と思いながら、堂端は急いで山を登った。
すると、少し上がったところに、いきなり、一面の芝桜が現れた。
なんだ、これは。
突然、すごい花畑だが、
町おこしか?
っていうか、なんで今咲いてるんだ?
と思いながら、堂端は、その花畑に足を踏み入れた。
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