妙なバトルが始まりました

 

 アドルフとヤンとともに城に戻った未悠は、アデリナに呼び止められた。


「あら、未悠。

 それはなに?」


 ドラッグストアの袋は、少し白みがかってはいるが、透明なビニール袋だった。


 コンビニで買ったものも、それに入れてもらっていたので、中身は丸見え。


 しまった。

 コラーゲンに目をつけられたかっ、と未悠は思ったのだが、アデリナの興味を引いたのは、コラーゲンでも化粧品でもなく、ビニール袋だったようだ。


「面白い素材ね。

 透明で、キラキラしてる。

 なにでできてるのかしら?」


「まあ、本当。

 どうなってるんですの?」

と城に入ってすぐの広間に居た娘たちがわらわらと湧いてくる。


「まあ、ガラスの袋みたいに透明」


「どっちかというと、透ける布みたいな素材ですわね」


「あら、中が見えますわ」

と彼女たちは身を乗り出し、覗いてくる。


 いや……あまり見ないでください、と思っていると、


「あら、未悠様。

 どうしたのです。


 また破廉恥な格好をなさって」

とふんわりした羽根のような美しい扇を手にシーラが現れた。


 うっ、まためんどくさいことを言い出しそうだな、と未悠は思う。


 っていうか、輿入れの準備で忙しんじゃないのか、と思っていると、アデリナがシーラに言った。


「未悠が不思議なものを持っているのよ。

 中身が透ける薄い袋なの。


 なのに、重そうなものが入ってても大丈夫なの。


 薄くても透けてても、頑丈なのよ、不思議だわ」


 アデリナの興味は、もっぱらビニール袋に向いているようだった。


「……あげるよ、袋、あとで」

と言うと、えっ? いいの? とアデリナは嬉しそうだ。


「百均とかホームセンターで売ってるから」


「百均って、なに?

 ホームセンターって?」

とアデリナに訊かれ、


「どっちも、行ったら、なんだかわからないけど、ワクワクして、気がついたら、いっぱい物を買ってしまっているところだよ」

と未悠は答える。


 そのとき、

「そんなものより、これはなによ」

とシーラが言ってきた。


 案の定、袋の中身に目をとめたらしい。


 コラーゲンの箱は派手な色合いで目を引く。


 コラーゲンに興味がいかないうちにっ、と未悠はプチプラ化粧品をつかむと、何個かバシッとシーラの手に置いた。


「あげる。

 みんなで使って」


 可愛いから、つい買ってしまったのだが。


 エリザベートには少し派手すぎる気がするリップやネイルもあったので、彼女らに渡したのだ。


「まあ、可愛らしいっ」

とシーラの手のひらを覗き込んだ少女たちが声を上げる。


「ええーっ。

 ありがとうございますっ、未悠様っ」


「順番決めましょっ」


「ちょっと私も入れなさいよーっ」


 最後にわめいたのは、もちろん、シーラだ。


 ともかく、みんなの注意が化粧品に向かっている間にと、未悠はビニール袋を抱えて逃げ出した。


 物を投げて、追っ手の気をそらし、黄泉比良坂を逃げるイザナギのように。


「大丈夫か、未悠」

と女性の集団は苦手らしいアドルフが離れた場所から訊いてくる。


「大丈夫です。

 それより、エリザベート様は?」

と言ったあとで、


「あ、そうだ。

 着替えなくちゃ」

と未悠は呟いた。


 エリザベートにスーツ姿で持っていったら、叱責されそうだからだ。


 でもまあ……、と未悠は目の高さにその袋を掲げて、眺める。


 なんだか怪しげだと思われて、飲んでもらえなさそうな気もするけど……と思いながら。




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