常々、ロクでもないことを考えていそうだ……

 


 お前は必ず自分の許に帰ってくる、と主張する駿を、未悠は胡散臭げに見た。


「何故ですか」


「俺は常々思っていたんだよ」

と言う駿を見ながら、


 常々、ロクでもないことを思ってそうだなーと思っていると、


「どんなに豪華な生活でも、中世の城とかで暮らすより、現代の街で暮らす方が快適だし、美味いものもある」

と言ってきた。


 うっ。

 それはそうなんだが……と思いながらも、


「で、でも、あっちの世界には、面白い人たちがたくさん居ますよ」

と未悠が反論すると、駿は社長室の扉に向かい、


「堂端」

と呼びかける。


「どうせ聞いてるんだろ、入ってこい」


 一瞬、迷うような間があったが、扉が開いた。


 失礼します、と入ってきた尊を見て、駿が言う。


「うちにもこういう面白い人材が居るぞ」


「いやまあ、堂端さんは面白いですけどね」

と未悠が言うと、なにっ? とシリオと似たその顔で、堂端は睨んでくる。


 ま、社長の方が面白いですが、と思いながら、未悠は言った。


「ともかく私は、帰れても帰れなくても、今すぐ、コラーゲンを持って帰るのですっ。

 エリザベート様のためにっ」


 此処までの流れを知らない堂端が、またおかしなことを言い出した、という目で未悠を見る。


「では、お兄様っ。

 さようならっ」


 そもそも自分がフッたくせに、勝手に同居しようとする駿にそう言い放つと、未悠は社長室を飛び出した。





「……なんでコラーゲンがいるんですかね?」


 未悠の消えた扉を見ながら、堂端が呟く。


「さあ?

 肌荒れでもしてるんだろ、慣れない暮らしで」

と言いながら、駿は、


 今、エリザベート様のためにとか言っていたな、と思う。


 そして、ふと見ると、デスクの前のソファにコートのようなものがあった。


 なかなかいい生地だ、と手にとってみると、それはマントだった。


 別に今の時代に着て歩いてもおかしくはない感じだな、と思いながら、よく見ると、その白いマントの胸に小さく金色の刺繍がしてあった。


 紋章のようだ。


「……これは」

と呟き、駿は、その紋章を見つめる。




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