ちょっぴり幸せになりました
未悠が王妃の間を出ると、アドルフが待ち構えていた。
「どうだった、未悠」
と訊いてくる。
未悠がエリザベートのところに忍んでいったのを知っていて、なにも言わずに見張っていたようだ。
「あ、すみません。
お話はうかがったんですが。
エリザベート様と約束したので言えません」
と言うと、アドルフは不満そうだった。
「あ、そうだ。
王子、自分で訊いてくるといいですよ」
と未悠は提案する。
「他言無用とおっしゃってはいましたが。
ちょっとつつけば、おそらく、つるっとしゃべると思います。
エリザベート様、たぶん話したがっていますから」
恋する女とはそういうものです、と未悠が言うと、アドルフは胡散臭げに言ってきた。
「お前に恋する女の気持ちがわかるのか」
「いや、人にそう聞いたんです」
とあっさり白状して、
「だよな……」
と言われてしまう。
いえあのー。
私にも、一応、社長を好きかな~とか思っていたときもあったんですけどね……と未悠が思っている間に、アドルフは、
「ちょっと待ってろ」
と言って、軽くノックをしたあとで、王妃の間に入っていった。
すぐに出て来て言う。
「ハードランド伯爵か。
悪くないんじゃないか?」
早っ、と未悠は王妃の間の扉を振り返った。
どんだけ、しゃべりたかったんだ、エリザベート様、と思ったとき、アドルフが言ってきた。
「しかし、エリザベートでさえ、恋をすると、あのように変貌するのに。
お前は俺に求婚されて、恥じらって、身を飾ったりとかしないのか」
「あー、いやいや。
私は、ありのままを見て欲しいので」
と言うと、アドルフは、ちょっと残念そうだった。
そのまま、なんとなく二人で歩き出す。
「でも、うまくいくといいですよね、エリザベート様。
女たらしのタモン様に、青春時代を振り回されて終わりとか。
エリザベート様ほどの人がもったいないですもんね」
そう言い、アドルフを見上げると、アドルフは、ふっと微笑みを浮かべ、未悠を見る。
……なんですか、急に。
いきなり、やさしそうな顔とかしないでくださいよ。
照れるではないですか、と思いながら、未悠がうつむくと、
「未悠」
と呼びかけてきたアドルフは、
「俺は、やっぱり、お前が好きだな」
と言ってきた。
「人の幸せを素直に喜べるお前が好きだ」
そう言い、未悠の額にキスしてくる。
「一緒に居て、なんだかホッとする。
……いや、次から次へと騒ぎを巻き起こしてくれるから。
そういう意味では、ホッとはできないんだがな」
そう言い、眉をひそめてはいたが……。
横を歩きながら、未悠は、そっと額に手をやり、思う。
いえ、私の方こそ。
今、なんだか、ちょっと幸せな気持ちになりましたよ、と。
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