エリザベートの秘密

 


 翌日の昼、早馬がやってきた。


 使者から手紙のようなものを受け取ったヤンが、

「王妃様からですっ」

と叫んだので、たまたま玄関ホールに居た未悠は凍りついた。


 自分とアドルフが兄妹かどうかわかったのかと思ったのだ。


 だが、ヤンは小首を傾げ、

「……エリザベート様宛てですねえ」

と不思議そうに言う。


 エレザベート様に?


 エリザベート様に私たちが兄妹かどうか、先に知らせるとか?


 ショックを受けないように?


 いや、王妃様はそんな気を使うような方ではない。


 じゃあ、違う話かな、と思いながら、未悠はヤンが通りかかったエリザベートを呼び止めるのを見ていた。


 エリザベートは少し緊張した面持ちでその手紙を開けていたので。


 彼女には王妃からなにかの知らせが来るのがわかっていたのかもしれないと思った。


 その手紙を黙って読んでいたエリザベートは、ホッとしたような顔をしたあと、封筒を逆さに降っていた。


 かしゃん、と小さな鍵らしきものが彼女の足許に落ちる。


 ん? と思ってみていると、エリザベートは慌ててそれを拾った。


 思わず、そちらを見つめていた未悠を見、エリザベートは、

「未悠様、なにをぼんやりされているのです。

 とっととお行きください」

といつものように叱ってきた。


 とっとと……


 何処へ?


 なにをしに?


 未悠とヤンはエリザベートを見つめた。


 特にすることなどなかったからだ。


「まったくもう」

と意味不明な言葉を呟きながら、エリザベートはその手紙と鍵を抱いて、何処かに行ってしまった。


「……気にならない? ヤン」


 エリザベートが消えた方向を見ながら、未悠は呟く。


「気になりますね、未悠様」


 そのとき、リコが後ろを通りすぎながら、

「どうでもいいが、未悠。

 そのドレスで、腕組んで仁王立ちはやめろよ」

と言ってきた。





「訊いてみればよかったじゃないか、エリザベートに。

 その手紙と鍵はなんですかって」


 アドルフの休憩時間に、未悠はアドルフを散歩に連れて出し、先程の話をした。


「王子、訊いてみてくださいよ。

 とてもじゃないですけど、訊ける雰囲気じゃなかったんですよ。


 ねえ、ヤン?」

と振り向くと、はい、とヤンが頷く。


 アドルフは、何故、ヤンが居る……という顔をしたが、庭園の中を歩くのにも、一応、警備は必要だ。


 ――という名目で連れてきていた。


 そもそも、魔王の城にひょこひょこ行くような王子に、本当にガードが必要かと問われると、よくわからなのだが。


 何故、二人きりでない、という目で、アドルフが見てくる。


 いやいや、まあ、それは今は置いといて、と未悠は目で訴え返した。


 こういうやりとりが無言でできるようになるくらい二人の仲は近づいたのかな、と未悠は思っていたのだが。


 アドルフには、特にそういう感慨はないようだった。






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