きっとなにか、恐ろしいことが……

 

 おのれ、いい雰囲気ではないか、リコめっ。


 扉の隙間から、未悠たちの居るサロンを覗きながら、シリオはどんどん身を乗り出して行った。


 すると、誰かが後ろから肩をつついてくる。


「シリオ様。

 リコ様にご無礼のないようになさってくださいよ」

と言うのは、またもラドミールだった。


「アドルフ王子ならともかく、他国の王族を怪我させたとか、国際問題ですから」


 いや、アドルフはいいのか、とシリオは思った。


 そういえば、さっきも、

『そんなにごちゃごちゃ言うのなら、王子と決闘でもなんでもしてくださいよっ』

とか言っていたし、あまり王子を敬う気持ちは感じられないな。


 まあ、公爵家の血筋だしな、と思うシリオに向かい、ラドミールは言う。


「っていうか、そもそも、シリオ様に未悠様のことに口を出す権利はございません。


 以前から申しておりますように、未悠様は、シリオさまが、王子にと連れてこられたんですよね?


 王子から取り返したかったら、ご自分が王になられたらいいではないですか」


「クーデターを起こせと言うのか……」


 どんな家臣だ、と思っていると、

「いえいえ。

 なんだかんだで、シリオ様は人がいいので、そこまで言ったら、なにもしないかなあ、と思って言っております」

とラドミールは、すべてを暴露してくる。


「それより私はちょっと、エリザベート様が気になりますね」

とラドミールは後ろを振り返っていた。


「どうにも行動が怪しいです」

と言う。


「どんな風に?」


「……そうですね。

 いつもほど、鬼のようでないというか」

とエリザベートに殴られそうなことを呟き、顎に手をやる。


「と言いますか……」

とラドミールは声を落とし、身を乗り出した。


 ついつい、シリオも身を乗り出す。


「こんなこと、絶対に、エリザベート様に向かっては言えないのですが」


 言えないのですがっ?

とシリオは身構えたが、ラドミールは、


「いやいや。

 やはり、私の口から、その言葉を出すのは恐ろしくて……」

と呟きながら行ってしまった。


 気になるだろうがーっ!

とシリオは、いやいや、とまだ首を振りながら行ってしまうラドミールを見送る。





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