ノートの秘密

「タモン様、これなんですが」

と深夜、タモンの部屋を訪れた未悠はタモンにそのノートを見せてみた。


 例の、アドルフが呪いの塔の近くで拾ったという、ラテン語に似た言語の書かれた、分厚い本のようなノートだ。


「私、これ、ちょっぴり解読してみたんですが」

と未悠が言うと、


「いつの間に……」

とタモンが言ってくる。


「いえ、ずっと気になっていたので。

 私の世界の古い言語とパターンが似ている気がして」


 そうノートのページをめくりながら、未悠は言った。


 そのとき、一瞬、おや? と思ったのだが、話している最中だったこともあり、その違和感をそのまま流していってしまった。


「図書室で貴方が女性に囲まれ、チャラチャラされているときに、古い本を見つけたんです。


 それで、照らし合わせながら、少し解読してみました。


 これ、今の王宮のしきたりとか、街の中のこととか、そう言ったことが書かれていますね。


 これを書いたのは、もしかして――」


「そう、ユーリアだ」

とタモンは言った。


「私が今のこの時代に馴染めるよう、私にわかる文字と文章で書いてくれた。

 今まであのような女性は居なかった」


 そう感慨深げに言うタモンに、

「あのようなでない女性は居たのですか?」

と未悠が突っ込むと、


「……追求が厳しいな」

とタモンは眉をひそめて言ってくる。


「いや、まあ、私も長い間、寝たり起きたりの生活をしているからな」

とまるで入院でもしているかのようなことを言っているが――。


 そんなこんなで長く生きている間に、いろんな女性が居たということですよね~と未悠は思っていた。


 昼間、図書室で女性に囲まれていたときのように。


「そりゃ、毒を飲まれたり、刺されたりするわけですよね~」


 結局、その毒のおかげで、刺されても死ななかったのだろうから、よかったのやら、悪かったのやら。


「でも、そんな風に思い合っていても、離れていってしまうものなのですね」


 このノートをタモンのために書いていた若き日のユーリアとそんな彼女を眩しく見つめていたタモンを思い浮かべ、しんみりしてしまう。


「なに。

 結局、ユーリアには今の王が一番合っていたということだ」

とタモンは飄々ひょうひょうとした口調で言ってくるが。


 本心、そう思っているかはわからない。


「それにしても」

とタモンは未悠をマジマジと見て言ってきた。


「こうして見ると、お前は、そこそこ綺麗だし」


 そこそこってなんだ……。


「結構好みなのに、こんな深夜に忍んでこられても、なんにもときめかないのは何故だろうな」


「性格的に合わないんじゃないんじゃないですかね~……?」


 そういうのってあるよなー、と思う。


 社長もアドルフも同じような顔なので、どっちも顔は好みなんだと思うのだが。


 社長の方は、見ると、なんだかわからないが、イラッと来ていた。


 アドルフの顔も癇に障っていたが、それは単に、そのイラッと来る社長と似ていたからだ。


 実は、社長の方とは相性が悪かったのかもしれないな、と今になって思う。


 気になっていたのは確かだが。


 社長と自分が本当に兄妹だというのなら、血が呼んでいただけだったのかもしれないし。


 間違いを犯さなくてよかった……。


 いや、まあ、なにが真実かはまだわからないが。


 あそこに居た中で一番可愛かったから、お前が俺の妹だとかあまり根拠のないことを言っていたし。


 そんなことを考える未悠の前で、ふいにタモンが言い出した。


「……私は何故、今、目覚めたのだろうな。

 そして、何故、今回は眠りにつかないまま、起きているのであろうか」


 未悠は少し小首を傾げてから言う。


「単に寝すぎなんじゃないですか? 何百年も寝てるんでしょうから」


「……お前と話すと、途端に悩むことが莫迦らしくなるから、不思議だな。


 アドルフはいい嫁をもらったな。


 ほら、帰れ」

となんか適当に言われ、未悠はタモンの部屋から追い出された。






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