別に信頼しているわけではない

 


 アドルフとリコに付いて塔にやってきたラドミールは、彼らと一緒に階段を登りながらも、まだ文句を言っていた。


「それにしても、未悠様にも困ったものですよ。

 考えなしで」


 リコは、ははは、と笑っている。


 特に反論することはないようだ。


 だが、あのおかしな娘に骨抜きになっている王子は案の定、文句を言ってきた。


「だが、未悠のあの行動力は素晴らしいぞ」


 自分こそが、未悠がウロウロするので困っているのだろうに、彼女をかばうためにか、そんなことを言う。


「ですが、王子までもが、未悠様のせいでこんなところにまで来るはめに。


 王子になにかあったら、どうするのです。


 未悠様の替えは効きますが、王子の替えなど居ないのですよ」


「……此処で話したことは、上まで筒抜けている気がするが」


 最上階の部屋へと真っ直ぐ続く螺旋階段を見上げながら、アドルフがぼそりと言ってくるが。


 なに、あんな庶民の小娘に聞かれたところで、別に問題はない、とラドミールは思っていた。


 それに、未悠は細かいことを気にするような女ではない。


 現に、今は臣下の立場であるはずのエリザベートが、以前のように上から頭ごなしに叱りつけても、未悠は笑って聞いている。


 自分も、むしろ陰口になる方が嫌なので、正々堂々と彼女に向かって文句を言いたいくらいだ、とラドミールは思っていた。


 それで、未悠が自分をどうこうするなどということはないとわかっているからだ。


 いや、彼女を信頼しているとか、そういうわけではないのだが……、などと考えているうちに、最上階に着いていた。


 魔王の塔にしては、簡素なドアを王子が開けようとしたので、

「お待ちください。

 危険です」

とラドミールはそれを止めた。


 いや、中で、なんだかわからないが、呑気に揉めている未悠とタモンの声が聞こえていたので、特に問題はないだろうとわかってはいたのだが。


 此処はやはり、万が一を考えて、自分が開けるべきだろう、と思っていた。


「私が開けようか」

と後方に居たリコが言ってくれるが、リコは実は他国の身分ある人間であるようだ。


 彼に怪我でもさせて、よその国と揉めても厄介だ。


「いえ、大丈夫です。

 リコ様もお下がりください」

と言って、自分が扉を開けた。


 ベッドと棚と小さな木の机くらいしかない部屋が見えた。


 窓は開け放たれ、心地よい風が吹き渡っている。


 あまり広くはないそこに、みっしりムサイ男たちが居た。


 リチャード一味だ。


 そして――


「あら、ラドミール」

と未悠が言い、こちらに来ようとするのが見えた。


 だが、その腰に後ろから手を回し、こちらに来させないようにしたものが居る。


 カッチリとした黒っぽい服を着た若い男だ。


「離してください」

と未悠が彼を振り向き、


「いやいや、なんでだ」

と未悠を抱いたまま、その男は言う。


 遅れて部屋に入ったアドルフが、びくりとしたように足を止めた。


「おや、替えがきかないはずの王子が此処にも居るようですが」


 そう言い、リコが笑う。


 未悠がこちらに来ないよう、後ろから抱きとめているのは、アドルフそっくりの若い男だった。




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