貴方が魔王様ですか?
奥の棚の前に、魔王は居た――。
いや、魔王っぽいものが居た。
そこはかとなく偉そうな生き物が。
その偉そうで魔王っぽいものは、こちらを見、
「未悠じゃないか」
と言う。
「何故、お前が此処に居るんだ……」
と言う彼に、未悠は思っていた。
いや――
貴方こそ、何故、此処に居るのですか……。
「アドルフ王子じゃないか」
とリチャードがこの時代には不似合いなスーツ姿の彼に向かい、言う。
「王子、さっき、あの小生意気そうな召使いに連れ去られてなかったか?」
とリチャードの連れの者たちも言っていた。
リチャードを見ながら、その魔王っぽいモノ――
未悠の会社の社長にして、自称、兄の
「未悠。
なんだ、この暴走族のヘッドみたいな奴らは」
いや、服装と頭部だけ見て、暴走族とか。
まあ、あんまり間違ってない気もするが、と思いながら、未悠は駿に訊いた。
「社長、なんで此処に居るんです」
「なんでもなにもないぞ。
お前があの花畑で消えてから、俺は何度もあそこを覗いていたんだが。
あるとき、パチンと音がして、気がついたら、また違う花畑に居たんだ。
此処は何処だと思いながら歩いていたら、この塔に出て。
入り口が壊れていたので、なんとなく入り、なんとなく上に登ったら、血塗れの部屋があったので。
部屋の主は殺されたかどうかしたんだろうから、誰も住んでないだろうと思って、とりあえず、此処を寝ぐらにすることにした」
奥の棚に綺麗なシーツもあったしな、と言う。
よく見れば、照明代わりにしたのか、石造りの最上階で寒いから、暖を取ったのか。
暖炉でなにかを燃やした痕跡がある。
血のついたシーツを焼いたのかもしれないな、と思った。
「相変わらず、たくましいですね、社長……」
この人、何処ででも生きていけるな、と思っていたが、やっぱりか、と思っていると、駿は未悠の手を引き、抱き寄せる。
「よかった、未悠。
こんな訳のわからない場所に出て。
夜は真っ暗だし、なんだかわからないケダモノの遠吠えはするし。
都会でしか暮らしたことのない俺には耐えられそうにないと思って。
せめて、死ぬ前にお前に一目会いたいと願ってたんだ」
なんでも冷静に分析できる人だと思っていたが。
おのれに対する分析能力はないようだ、と未悠は思っていた。
貴方に会ったら、ケダモノの方が一撃で夕食にされそうだし。
貴方は、何処ででも死にそうにはない人ですよ? と思っている間、未悠は駿に抱き締められていた。
そして、そんな未悠と駿を何故か、タモンが顎に片手をやり、じっと見つめている。
「……すみませんが、助けてください」
と駿が離しそうもないので、未悠がタモンに言うと、
「助けて欲しいのか」
とタモンは訊いてくる。
「はあ、まあ、できれば……」
と感慨に
「いや――
ちょっとなにか思い出せそうなんで、そのままその魔王に襲われててくれ」
と言ってきた。
いやいやいや。
貴方が魔王でしょうが……。
本当に頼りにならない。
やはり、社長の方が余程、魔王らしいな、と思ったとき、階段の下の方から声が上がってくるのが聞こえてきた。
石の壁に反響してはいるが、ラドミールとアドルフの声に聞こえる。
なにやら揉めているようだ。
げ、と未悠は固まった。
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