此処は魔王の城である

 


「なんか緊張してきたな……」


 塔の中の石の螺旋階段を登りながら、タモンが言う。


「なにかが出てきそうで」

と言う彼に、未悠はその後ろをついて歩きながら、


 いや、此処、貴方の城ですよ……と思っていた。


 城っていうか、塔だが。


 先頭は相変わらず、やる気満々のリチャード、次がタモン、未悠。


 そして、後ろを守るという理由により、リチャードの部下たちの順だった。


「とりあえず、てっぺんの部屋は血塗れで凄惨ですが」

と未悠が言うと、


「望むところだ」

とリチャードは頷く。


 いや、まあ、血塗れなだけですけどね、と思いながら、みんなの話し声と靴音以外に音がしていないか耳を澄ます。


 例えば、ケモノの声とか、と思ったが、みんなの話す声が騒がしく、石造りなので反響するため、なにも聞こえない。


 いまいち緊張感ないな、タモン様以外、と思っている間に、最上階に着いていた。


「此処が魔王の部屋か」

とリチャードが舌なめずりしそうな顔で呟く。


 いや、ただの悪魔だったはずなんですが。


 それも、女たらしの悪魔という意味の、と思いながら、リチャードが剣を構え、木の扉を開けるのを見ていた。


 アーチ型の簡素な扉が開いた、そこに――


 血まみれのベッドはなかった。


「え?」

と未悠とタモンが声を上げる。


 ベッドには、パリッとした真っ白なシーツがかかっていたからだ。


「あれっ? 塔間違えました?」

と思わず、未悠が言うと、


「何個もあるのか、こんな塔」

とリチャードが言い、タモンは首を傾げる。


 そのとき、

「誰だ」

と声がした。


「誰だ。

 私の城に勝手に入ってきた奴は」


 よく響くその声に聞き覚えがある気がして、未悠は振り返る。


 そこに――


   魔王は居た。





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