此処が魔王の城である2

 魔王の城はすぐそこだったが、未悠は、ふと木々の向こうを振り返ってみた。


 今、此処からは見えないが、左手にあの花畑があるはずだった。


 うーん。

 いろいろと気になるな、と思いながら歩いていると、後ろから、

「バスラー様っ!」

と声がした。


 何故か供の者を従えたシーラが居る。


 バスラーが見ても可哀想なくらい、ビクッとしていた。


「こんなところでなにをしてらっしゃるんですかっ。

 子鹿は捕れましたの?


 お父様がお待ちかねですのよっ」


 どうも獲物を持って、シーラの家を訪ねることになっていたらしい。


「遅れていらっしゃるとか勘弁ですわ。

 貴方が私と私の家を軽んじていらっしゃるみたいに見られるではないですか」


 さあさあ、となによりも自分が低く見られることを嫌うシーラに首根っこをつかまれるようにして、バスラーは連れ帰られた。


「……あれはいいのか?」

と自由を愛する風来坊、リチャードが振り返り、呟いている。


「いいんでしょう。

 なんだかんだで、若くて可愛い嫁をもらったんですから」

と未悠は流した。


 シーラにこっぴどくやられながらも、バスラーがちょっと幸せそうに見えたからだ。


 ……っていうか、少し嬉しそうにも見えたんだが。


 もしや、ドMなのだろうか、と思っているうちに、あっさり塔の下に着く。


 未悠が壊し、リコたちがトドメをさした地下の入り口から入ろうとして気がついた。


 扉の向こうになにか居る。


 っていうか、壊れているので、既に見えている!


 さっきまで城に居たはずのラドミールがそこに居た。


 壊れている扉を更に壊し、大きな身体で塔の地下へと入り込んだリチャードがラドミールに問う。


「お前が新しい魔王か」


 タモンが後ろで、いつ、私は魔王を追われた、という顔をしている。


「なんの話ですか」


「お前、いつの間に、此処へと転移した。

 城の中に居ただろう」


 ラドミールは小馬鹿にしたような顔で全員を見、……いや、アドルフ様も居るんだが、と思う未悠の前で言った。


迂回うかいして広い道を馬で来たんですよ。


 急に隣国からお客人が見えられたんです。

 さあ、帰ってください、アドルフ王子。


 今、城には客人を出迎えられるような人間が、貴方の他には誰も居ないのですから」


「待て。

 私が居ないと未悠が――」

と言いかけるアドルフに、


「此処になにがみ着いていようとも。

 簡単にやられるような娘ですか、これが。


 っていうか、アドルフ様より、強そうな者たちがたくさん此処には居るではないですか」

と大概には失礼なことをいいながら、ラドミールはアドルフを連れ帰ろうとする。


「未悠様」

とこちらを振り向き言ってきた。


「王も王妃も居ない今、この方が居らっしゃらないと困るのです。

 わかりますね?」

 と脅すように言われ、……はい、と頷く。


 アドルフも従者に首根っこをつかまれ、去って行った。


 どうしたことだ。

 敵も現れていないのに、次々仲間が脱落していくが……。


 っていうか。

 石の塔の中は、よく声が反響する。


 この上になにかが居るのなら、この間抜けな会話が全部筒抜けなのでは、と思いながら、未悠は螺旋に続く石段を見上げた。



 

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