此処が魔王の城である1
「どちらに行かれるんですかな」
とバスラー公爵が訊いてきた。
これから魔王の城の探索に魔王を連れていくのだとアドルフに説明を受けたバスラーは、
「魔王とは?」
とリチャードを見る。
なんとなく魔王っぽいからだろう。
だが、リチャードはタモンを手で示し、
「この方が魔王様ですが」
と紹介した。
ほう、とバスラーは言ったが、特に意外そうでもなかった。
「そうでしたか。
どうりで。
初めてお見かけしたときから、並々ならぬ気品のある方だなと思っておりました」
などと言っている。
いや、魔王って気品があるものなのか? と未悠は疑問に思っていたが。
しかし、わりと細かいことを気にしない男だな、バスラー。
意外に器がデカそうだから、シーラと似合いかもな、とシーラに殴られそうなことを考えていると、バスラーは、
「しかし、冒険とは楽しそうですな。
私も混ぜていただきたいものですな」
と言ってきた。
目的地が城のすぐそこ。
しかも、魔王がこちら側に居ると知った気安さからか。
それとも、たまには、シーラによるストレスから解放されたいのか。
バスラーはそんなことを言ってくる。
列に混ざったバスラーの楽しそうな様子を見ながら、未悠は思っていた。
しかし、男って、冒険好きだな、と。
私は、少々不安なんだが。
数々の目撃証言から考えても、城には、なにかが居る気がする。
この呑気な魔王みたいな奴ならいいんだが、とタモンを窺っていると、アドルフが後ろから訊いてきた。
「どうした? 未悠」
「いえ、ちょっと嫌な予感が」
そう小声で言ったあとで、アドルフを振り向く。
「でも、大丈夫ですよ、アドルフ様。
アドルフ様は、私がお守りしますから」
と言って、
「……いや、逆だろう」
と言われてしまったが。
何故、お前が俺を守るか、未悠、と思いながら、アドルフは未悠の後ろをついて歩いていた。
そんなに俺は情けないだろうか。
確かに未悠の前では、一度もいいところを見せてはいないが……。
そんなアドルフの胸には、今、ひとつの野望があった。
そろそろ、未悠に呼び捨てにして欲しい、という野望が。
旅というほどでもない旅だが。
此処で少しはいいところを見せて、未悠との距離を縮め、『アドルフ様』ではなく、『アドルフ』と呼んで欲しいと願っていた。
こちらが強制しても、また元に戻ってしまいそうだからな、とアドルフは、ラドミールに言ったら、冷ややかに見られて、
「平和ですねえ……」
と言われそうな野望を抱いていた。
「っていうか、王妃様が戻られて、やっぱり貴方たち、兄妹だったわ。
ああ、私、離婚することにしたから、とか、かまされたら、どうすんですか」
妄想の中のラドミールは普段より
ありえない話でもないところが、恐ろしいところだった。
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