黒やぎさんが食べてしまったのだろうか……?



 広間に居た未悠たちの許にヤンがやってきて言う。


「未悠様。

 お妃様がお呼びです」


 おかしいな、と未悠は思う。


 確か、ヤンはタモンを呼びに行ったはずなのに。


 何故、私が呼ばれている。


「黒やぎさんが食べちゃったのかしら」

と呟くと、アドルフが、


「タモンをか」

と言う。


「いや……手紙をですよ」

と言ったが、この世界に、やぎさんゆうびんの歌があるかどうかは知らない。





 ユーリアが、まだゲームを続けていたエリザベートとタモンを眺めていると、ヤンが戻ってきた。


「未悠様をお連れしました」


 未悠がゾロゾロとお供のものを連れ、現れる。


 こんなに大量に呼んだ覚えはないのだが……と思いながら、ユーリアはその様を眺めていた。


 何故か揉めているアデリナとシリオまで居る。


 というか、何故か、ガンビオまで居る。


 どうもこの娘の周りは騒がしいな、と思っていた。


 ヤンとアドルフを筆頭に、未悠がおのれの心酔者を引き連れてきた感じだ。


 未悠は、エリザベートが見立てたと聞いたラベンダーのドレス姿で、優雅に挨拶をしてくる。


 庶民の出だと聞いたが、未悠にはすでに王族の風格があった。


 これだけの人数を従えていても違和感がない。


 ……我が息子まで、下っ端っぽくなっているのが、気になるが、と思いながら、ユーリアは姑らしく、厭味のひとつもかましてみた。


「ずいぶん来るのに時間がかかりましたね、未悠」


 未悠が口を開こうとした瞬間、周りが一斉に騒ぎ出す。


 アデリナが、

「そうなのですよ、お妃様。

 私は、まず、お妃様の許に行けと言ったのですが」

と言い、シリオが、


「莫迦な。

 あんな破廉恥な格好で、お妃様の前に出るとかあるか」

と言い。


 ……破廉恥な格好ってなんだ。


「私は今日は淡いイエローのドレスの方がいいと言ったんだが、ラベンダーだと母上と被るから」


「未悠様は、なにを着てもお美しいですよ」


 息子が言い、ガンビオが言った。


 ……こいつら騒がしいから、言うだけ言ったら、とっとと帰らせよう、とユーリアは思った。


「未悠。

 貴女が、何処の何者でもいいのですが」

と自分が言うと、未悠は、いいのか? という顔をしていた。


 自分だって、まともな王妃ではない自覚があるので、あまり周りの人間にああだこうだ言う気はなかった。


 特に、目の前に、タモンという、おのれの罪の証が居る今。


 家柄でいえば、自分の方が妃にふさわしい立場にあったかもしれないが。


 夫を愛しているという点においては、未悠の方がふさわしい気がする。


 今もアドルフとなにやら目と目で会話している未悠を見ながら、姑としては、ちょっとイラッとくるな、と思いながらも、息子を大事にしてくれそうだな、と思ったりもしていた。


 そういう意味では、姑は、自分との婚姻を喜んではいなかったろうな、と思う。


「未悠。

 正式に婚姻を結んだあとは、貴女もいろいろとやることがあるのですから。

 王子妃がいきなり消えるようでは困りますよ」


 そう威厳を持って言ったはずだったのだが、未悠は、そのセリフに被せるように、

「そうなんですよーっ」

と言って、いきなり騒ぎ出す。


「その人、どうにかしてください」

と未悠はタモンを手で示した。


「その人がパチンと指を鳴らしたら、此処から私が消えちゃって。

 シリオ様がパチンとやったら、戻ってきちゃったんですよーっ」


 そこで、シリオが深々と頷く。


「そうなのです。

 私の強い思いによって、未悠はこちらに戻って来たのです。


 だから、未悠は私のものです」


 シリオ、とアドルフがそこで口を挟んだ。


 お、なにか文句を言う気か? と思っていると、


「シリオ、落ち着いてよく考えろ。


 本当にこれでいいのか?

 他に幾らでも、いい娘が居るだろうが」

と言い出した。


 未悠が、

「ねえ、王子。

 本当に私のことを好きですか……?」

と訊いている。





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