まったりとした午後の城
まったりとした時間の流れる午後の城――。
タモンが部屋でゆっくりしていたら、突然、エリザベートがゲームの盤を手に現れ、勝負を挑んできた。
エリザベート……。
見た目は変わったが、中身は変わらないようだな、と思っている間に、その勝負を受けることになってしまった。
まあ、未悠に起こされてから、特にすることもなく、暇なので、いいかと思い、その相手をしていたら、自分が寝ている間に、エリザベートは研鑽を積んでいたらしく、木っ端微塵にやられてしまった。
エリザベートはご機嫌のまま、ユーリアとともに、去っていく。
途中で、ユーリアに呼ばれた未悠とその御一行様を残して。
いや、連れて帰ってくれ、と思っていると、案の定、窓際の椅子に腰掛けている自分の許に、怒っているらしい未悠がやってきた。
「タモン様」
と可愛らしい顔で、叱るように見下ろしてくる。
「指出してください」
「指?」
「縛ります」
とおもむろに、その辺にあった紐で縛ろうとする。
二度と、いきなりパチンとやらないようにだろう。
だが、指なんぞ縛られたら、不便でかなわない。
待て待て待て、とタモンは未悠を止めた。
「未悠よ。
落ち着いて、よく考えろ。
本当に、私がパチンとやったから、お前があちらの世界に飛んだのか?」
なにか違う原因があるのではないかと訴える。
「シリオがやったとき、お前が戻ってきたのも偶然じゃないのか?
大体、おかしいだろう。
指を鳴らしたくらいで、飛んだり戻ったりするのなら、最もお前の帰還を望んでいたアドルフがやったとき、戻らなかったのは何故だ?
お前たちの酒場でも指を鳴らして歌ったり、踊ったりしてる連中が居るだろう。
そのとき、お前が飛ばなかったのは何故だ」
そう言いつのったが、
「責任逃れですか、タモン様」
と言われてしまう。
だが、未悠は溜息をつき、認めた。
「……ですが、まあ、正直、別の条件も幾つかあるのかな、とは思っております」
そんな未悠の後ろから、アドルフが余計なことを言ってくる。
「いっそ、指を切り落としたらどうだ?」
……自分がやっても未悠が戻ってこなかった腹いせだろうかな、と思いながら、アドルフを見上げた。
その言葉に、未悠は、
「いえいえ。
私もまだ向こうに用事があるので、戻らないわけにはいかないんですけど」
と言って、アドルフに嫌な顔をされていた。
未悠が向こうの世界に未練がある風なのが嫌なのだろう。
贅沢だな、と思いながら、タモンはそれを眺めていた。
なんだかんだで、この二人は自分が好きな相手に思われている。
……贅沢だな、と思いながら、ふたたび未悠の顔を眺めた。
よく見れば、好みでないこともない顔だが。
なんだかわからないが、ときめかない。
色気がないからかな、と未悠が激怒しそうなことを思い、結論づけた。
「エリザベート、先に行っていて」
ユーリアは下の広間に行くエリザベートと別れ、王妃の間へと行く。
そこで、接客するときに使う椅子の後ろの棚に隠していた小箱を取り出した。
なんの変哲もない木の箱だ。
だが、その中には細かい細工の施してある金の小さな箱が入っている。
いよいよ、これを渡すときが来たのか、とユーリアは感慨深くそれを眺めた。
鍵のない箱だ。
だが、この箱を開けることは自分には出来ない。
箱が開けられるのは、王家の血を引くものだけだからだ。
そのように封印がしてあるのだが、かなり、血の濃い人間でないと、駄目なようだった。
この中には、自分が結婚前にはめていた指輪がある。
代々、王妃となるものに受け継がれているもので、これを王妃が息子に渡し、息子が箱を開け、おのれの妃となるものに渡す。
婚約期間が終わると、違う指輪をはめるので、本当に一時期しか身につけないものだが。
自分はこの指輪を疎ましく思っていた。
だが、勝手な願いだが、未悠には大事にして欲しいと思っている。
この指輪も、アドルフも。
……二度と向こうの世界に飛ばないように、タモン様の指を縛っておこうかしら、と嫁と同じことを考えながら、ユーリアはその箱を手に、タモンの部屋へ戻ろうとした。
おそらく、まだ未悠たちが居て、中で揉めているだろうと思ったからだ。
だが、
「あ、王妃様」
と声がし、振り返ると、未悠も何処からか、タモンの部屋に戻ってくるところだった。
未悠は、手にある黒い盤と木製のケースを振りながら、
「今、さっきのゲームをエリザベート様から借りてきたところなんですよ。
変な方向に話が転がってっちゃって、誰が一番強いか決めることになりまして」
と笑って言ってくる。
いや……お前の話はいつも変な方向に転がっているが……。
というか、そんな
「お妃様もいかがですか?」
と未悠に微笑まれ、困る。
今から大事な話をしようと思っていたのに、と。
王妃の威厳をもって、彼女に渡そうと思っていたのに、急に現れられ、ユーリアは動揺したまま言ってしまった。
「み、未悠。
実はこの中に指輪がっ。
私には開けることが出来ないのですが……っ」
「あら?
いけませんね。
鍵が壊れてしまったのですか?」
未悠はそう言い、箱を手に取ると、眺めてみていた。
「ああ、いえ。
アドルフには開けられるはずなのです。
だから、未悠、アドルフに開けてもらって、この中の指輪を……」
言い終わらないうちに、ぱか、と箱を開けて未悠は笑う。
「あ、開きましたよ、お妃様」
そう言って、未悠は蓋の開いた箱をこちらに見せてきた。
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