やっぱり、タモン様は何処です?


 こちらに飛んだときのことや社長の言葉など、いろいろと考えたいこともあったのだが、なにやら騒々しくて考えられない、と未悠は思っていた。


 やはり、アデリナも公爵令嬢。


 シーラと同じで、プライドの高さは半端なく、何故、自分ではなく、未悠か、ということを先程からずっと、シリオに問い詰めていた。


 王子だけなら、許されたようなのだが。


 シリオまでとなると、許されないようだった。


 っていうか、王子に関しては、たぶん、王子妃になるのがめんどくさかったから、どっちでもよかったんだな、とシリオを質問攻めにするアデリナを見ながら未悠は思う。


 シリオが好きでないのなら、別にいいような気がするんだが、と思ったあとで、


 いや……待てよ、と気づく。


 もしかして、アデリナはシリオが好きだとか?


 好きとまではいかなくとも、気になっているとかはあるのかもしれない、と思う。


 アデリナの父がシリオにアデリナを勧めていたとき、アデリナは視線をそらしていたが、単に、気恥ずかしくて、そらしていただけかもしれない。


 それに、シーラの惨状を……


 とか言ったら、ちょっと脂ぎってそうだが、人が良いらしいバスラー公爵には申し訳ないが、乙女の夢の結婚相手からは、程遠い、シーラの惨状を見たアデリナは、相手がシリオだと聞かされて、ほっとしていたのかもしれないではないか。


 シリオは、タモン並みに胡散臭いが、一応、かなりのイケメンだし、家柄もいい。


 一緒に居て、面白くないこともないし――。


 王子の基準なら、面白いというだけで、長年連れ添えるようだしな……。


 アデリナがシリオがいいと言うのなら、応援してやらなければ。


 アデリナは此処へ来て、最初に出来た女の子のお友だちだ。


 いろいろと助けられたことだし。


 シリオが私を好きだとか言うのは、王子が言うように、軽い暗示のようなものだろう。


 思い込ませたタモンに暗示を払わせるか、違う暗示をかけさせるのが一番だ、と思い、未悠は、ヤンに言った。


「ヤン、タモン様を呼んできてくださいますか?」


 ヤンは即座に、

「はいっ、未悠様っ」

と最敬礼して飛んでいく。


 アドルフがそれを見ながら、


「……あいつ、最近は、俺じゃなくて、お前に仕えてないか?」

と少し寂しそうに言っていた。





「まあ、タモン様。

 眠っている間に、腕もずいぶん衰えましたわね。


 次々新しい戦法が生まれていますしね」


 タモンを前に、エリザベートが、ほほほほほ、と実に楽しそうに笑う。


 キラキラとした、クリスタルのチェスの駒のようなものを盤上で戦わせるゲームをエリザベートとタモンはしていた。


 ユーリアは呆れたように、そんな二人を見ている。


 好きな男を負かしてなにが楽しいのだろうかな、と思っていたのだ。


 だが、あれから、二十数年。


 こうして、城の日当たりのいい部屋で、三人でお茶を飲んだり、ゲームをしたりする日が来るなどと思ったことはなかった。


 時の流れを感じるな、と思っていると、誰かが扉をノックした。


 二人ともゲームに興じていて、気づかない。


 仕方ない、と王妃のはずの自分が小間使いのように立ち上がり、はい、と振り向き、返事をする。


 三人だけの方が落ち着くので、侍女たちには席を外させていた。


 扉を開けると、

「お妃様っ」

と自分に扉を開けさせたことに気づきいたヤンがかしこまる。


 ヤンは庶民の出で田舎臭いが、実直な男で、アドルフも重用しているようだった。


「実はあの、未悠様が、タモン様をお呼びなんですが」

というヤンの言葉に、エリザベートたちも振り向いた。


「未悠が帰ってきたのですか?」


 あ、まず、そこからでしたね、とヤンは苦笑いしていた。






 

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