ついに、なにかあったのだろうか……?
なんだろう……。
王子に、自分の出生のことを確かめさせるつもりが、お互いの大暴露大会になっている、と未悠は思った。
まだ腹の決まらぬアドルフが訊きたくないあまりに、ああだこうだと言ってきて、王妃の前で言い争っているうちに、そのような流れになってしまったのだ。
「お前、そもそも、シリオの甘言に乗せられて、俺を殺しにやってきたんだろうが」
「殺そうとしたんじゃないですよ。
ちょっと刺すだけって言われて来たんですよっ。
っていうか、そもそも、自分を殺しに来た女をいいとか言う、貴方が、おかしいんじゃないですかーっ」
もうこの辺りで、いつ、城から叩き出されてもおかしくなったのだが、さすがアドルフの母、並みの母親ではなかった。
なにやら、彼女のいい暇つぶしになっているようで、家臣の前での醜い言い争いを止めもせず、興味深げに聞いているだけだった。
ただ、
「お前、塔の悪魔まで起こして来やがって」
とアドルフが言ったところでは、さすがに表情が変わったが――。
王妃は身を乗り出し、
「タモン様が起きているのですか?」
と未悠に問うてきた。
「あ、はい。
今は城に。
エリザベート様が見張ってくださっています」
と言うと、王妃は頷き、立ち上がった。
未悠たちに向かい、
「城へ戻りなさい、お前たち」
と言ってくる。
王妃らしい威厳あるその姿に、ついに叩き出されるのだろうか、と思ったが、王妃はタミアという侍女を振り向き言った。
「馬車の用意を。
私も城に戻ります――」
今来たばかりの道を、王妃の馬車のあとについて、未悠たちの馬車も走っていた。
馬車の中で、アドルフは渋い顔をしている。
「まずいと思ってます? あの二人を合わせること」
と未悠が訊くと、
「いや、別にいい。
だだ――」
とアドルフは言葉を切ったあとで、
「母上が城に戻ってくると、いろいろと口を出してくるので、うるさいなと思っていただけだ」
と言ったので、笑ってしまった。
王子というより、上京してきた母親に部屋が汚いとか、帰るのが遅いとか文句を言われれるのが嫌だと愚痴る、一人暮らしの息子のように見えたからだ。
「でもそうだな。
母上が城に戻ってくるのなら、あとは父上がお戻りになれば、式が挙げられるな」
とアドルフが言い出した。
……そ、そうだった、と焦りながら、未悠が、
「でもあの、私はまだ貴方のことを好きかどうかもよくわかりませんし。
そんな状態で結婚しろとか言われても」
と訴えると、
「なにを言う。
王族や貴族の結婚など、本来、相手の顔も知らぬままということも多いのだぞ」
と言ってくる。
いや、王子。
私は、平民です……。
そう思ったあとで、ふと気づき、
「では、お妃様も顔も知らないまま、王に嫁がれたのですか?」
と訊いてみた。
それで不満が残り、つい、タモンに走ってしまったのだろうかと思ったのだ。
だが、アドルフは、
「いや、あの二人は幼なじみだ」
と言う。
幼なじみか。
お互いのことを知りすぎているがゆえに、ときめきなどと言うものからは遠く、恋というものをしてみたかったユーリアの中には燻るものがあったのかもしれないな、と思った。
それがただの不満で終わればよかったのに。
ユーリアはタモンと出会ってしまった。
「王妃様は、結婚されてから、タモン様と出会われたんでしょうか?」
「さあ。
わからないな……」
とアドルフは呟く。
まあ、結婚前の不祥事なら、そもそも王妃になっていないだろうしな。
そういえば、あの悪魔の人はどのくらいの期間、起きていられるものなのだろう?
そんなことを思っているうちに、意外に近い城に着いてしまった。
早く追い返したい……。
日当りの良いサロンにシリオはタモンと居た。
娘たちが群がってきているが、群がっているのは、タモンの方にだ。
アドルフと同じような顔だが、王子には立場的に近寄りづらい娘たちも、タモンになら話しかけられる、と思ったようで、やたら、タモンに接近している。
本を手に、窓に腰掛けていたタモンだが、娘たちの質問攻めに、ページが捲れないようだった。
ちなみに、タモンが窓枠に片足を立てているのは、格好をつけているわけではない。
マントの下のナイフが見えないようにだ。
そんなタモンの銀の髪は光を浴びて輝き、その整った顔を更に引き立てている。
その美しい姿を見ながら、シリオがまた、早急にお帰りいただこう……と思ったとき、サロンの扉が開いた。
多くの従者を連れた王妃が現れる。
後ろに続く未悠たちが連れて戻ったようだった。
王妃の登場に、娘たちは慌ててタモンから離れ、控える。
さすが元王族。
高貴な雰囲気のあるタモンを、娘たちは、何処かの国から来た賓客だと思っているようだった。
王妃は離れた位置に控えたまま、自分に挨拶してくる彼女らを見たあと、扉近くに居たエリザベートを見て頷く。
そのあとで、ようやく、
「タモン様」
と悪魔に呼びかけた。
「お久しぶりでございます」
淡々としているな、とシリオは思った。
長い年月を経ても、様々な想いが去来しているだろうに。
かつての想い人を前にしたユーリアは、王妃らしく、落ち着いていた。
その後ろでは、まったく落ち着きのない未悠たちが目と目で会話をしている。
なにかこう、未悠のせいで、王子まで落ち着きがなくなってきたような……。
それにしても、ずいぶんと二人の距離が近くなったようだ。
実際には、城でも馬車でも派手に罵り合った二人は、殴り合って距離が縮まる男同士のような感じで距離を縮めていたのだが、その過程はわからないので。
シリオは、ついに二人の間に、なにかあったのかな、と思いながら、未悠と王子を眺めていた。
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