猛烈に好みだったとか?
未悠は悪魔の部屋を出てから、ずっと考えていた。
王子の出生のこともだが、自分は本当に社長のことを好きだったのかと言うことも。
顔が好きだったんだよな、と思う。
初めて見たときから、なんかあの顔が気になったんだ。
なんでだろう?
猛烈に好みだったとか?
あの顔を外して考えたら、ただの気の合う人だったような気もする。
そんなことを考えながら、廊下をウロウロしていると、兵士たちや通りかかる貴族たちが。
未悠様だ。
どうしたんだ?
なにか深くお考えのようだ。
話しかけないでおこう。
――と、いうような思いをすべて顔に張り付かせ、こちらを振り返っていた。
お言葉に甘えて、いや、まあ、なにも言われてはいないのだが―― 遠慮なくウロウロさせてもらう。
すると、上からアドルフが下りてきた。
こちらもなにか考えているようだ。
相変わらず、この顔を見ると、どきりとしてしまう。
ずっと……
社長に似ているから、気になるのかな、と思っていたのだが。
「未悠……」
と自分の前で足を止め、アドルフが見下ろしてくる。
「あれからずっと考えていたんだが」
うーん。
こういう愁い顔は悪くない。
というか、顔自体は非常に好みなんだが、と思いながら眺めていると、
「お前は厄介な娘だ」
とアドルフは言い出した。
「なにを考えているのかよくわからないし、突飛な行動をとるし。
挙句の果てには……
タモンまで起こしてくるし」
廊下なので、誰かが聞いていてはいけないからか。
アドルフは、彼を塔の悪魔とは呼ばなかった。
「なのに、何故、私はお前を好きなのだろうとずっと考えていたのだ」
とアドルフが手を握ってくる。
思わず、どきりとした瞬間、アドルフは大真面目な顔で訊いてきた。
「未悠よ。
お前のいいところは何処だ?」
「私に聞かないでください、王子……」
そのとき、
「未悠様」
と声がした。
ラドミールに先導され、アデリナたちがやってきた。
あの娘が、
「未悠様っ。
あ、アドルフ王子もいらっしゃいましたか」
と嬉しそうに笑って言ってくる。
アドルフが、俺がオマケか、という顔をしていたが。
アデリナが、
「我々はもう城を発ちますので、ご挨拶を。
大変お世話になりました。
短い間とはいえ、花嫁候補に選ばれ、未悠様と競えたこと光栄に思っております」
と言いながら、お辞儀をすると、全員がそれに習う。
シーラも居たが、一番後ろでめんどくさそうにやっていた。
アドルフが自分のために集まってくれたみなに、ねぎらいの言葉をかける。
そのあとで、あの娘が訊いてきた。
「大丈夫ですか? 未悠様。
塔の呪いは」
そういえば、森に入り込こもうとしたことを、そうやって誤魔化したんだったな、と思い出す。
「ええ。
ありがとう。
皆様のお陰でなんとか乗り越えられましたわ」
と言うと、アドルフが、
いや、お前、とり憑かれるどころか、自ら呪いを城に持ち帰ったろう、という顔をする。
すると、娘は、
「きっと、アドルフ王子の愛のおかげですよ」
と言ってきた。
……愛。
あるのだろうか? 愛。
私たちの間に、とアドルフの顔を見る。
すると、
あるだろう、愛、とアドルフが目で訴えかけてくる。
ないでしょう、愛、と目と目で会話していると、乙女たちが、ほう、と吐息をもらす。
さっきから、自分たちが、愛ゆえに、手を取り合ったり、見つめた合ったりしていると思ったようだった。
「私たちも早く素敵なお相手を見つけたいわ」
「未悠様とアドルフ王子のような素敵なご夫婦になりたいものですね」
可愛らしく純粋な娘たちの目は何処までも曇っているようだった。
シーラとアデリナだけがしらっとして、未悠たちではなく、その娘たちを見ていた。
「長居しまして、申し訳ございません。
またいつか何処かで、未悠様」
とあの娘が別れの挨拶をしてきた。
「いろいろとありがとう。
……」
未悠は、そこで沈黙してしまう。
……名前、知らなかった。
今更聞けないんだが、と思いながら、チラとアデリナを見たが、彼女は人の名前を知らずに友達になるというマヌケはしないようで、聡い彼女にさえ、その視線の意図は、まったく伝わらないようだった。
未悠は、適当に誤魔化して、名前を呼ばず、
「ではぜひ、また皆さんでお茶会でも」
と微笑みまとめたが、娘たちは喜んでくれた。
「じゃあ、未悠」
あくまでも様はつけずに、シーラが言ってくる。
「私は来るわよ。
また来るわよ。
お父様やお母様について、城にはよく来てるから。
じゃあね、また。
それでは、アドルフ王子、失礼致します」
とシーラはアドルフにだけ丁寧に挨拶し、去って行った。
「未悠様、それでは私も」
と優雅にお辞儀をし、アデリナも居なくなる。
ひとり去り、ふたり去り、誰も居なくなると、妙に寂しくなってしまった。
それを察してか、アドルフが、
「お前も一度、酒場に帰るか」
と言ってくる。
「私も行こう。
ご挨拶しないとな、お前を拾い、養ってくれた者たちに」
「……ありがとうございます」
初めは断ろうと思ったのだが、王子が来ると、マスターたちが喜ぶかな、と思い、その話を受けた。
「じゃあ、出かけるついでに行きませんか?」
とアドルフを見上げて、未悠は言う。
「……何処にだ?」
と警戒したように言ってくるアドルフに、
「もちろん。
お妃様のところにです」
と笑うと、
「やっぱりか」
と渋い顔してアドルフは言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます