莫迦となんとかは高いところに上りたがるって、この国でも言いますか?
シリオに連れられ、王子の部屋に行く途中、何人かの貴族らしき人々に出会った。
階段を上がっていこうとする自分たちを、みな、振り返り、見ている。
「この上は王族しか入れないエリアだからな。
お前が王子に呼ばれたことがわかるのだろう」
……勝った、とシリオは笑う。
なにに? と思いながら、
「シリオ様。
実は私が王子に選ばれるかどうか賭けてたとかないでしょうね?」
と訊いてみると、
「莫迦者。
そんなこと私がするか」
と言うのだが。
いや、今、まさに、私が王子にはべらされるかどうかで賭けてますよねーと思っていると、シリオは、いつもより少し真面目な顔で、
「私はあの王子にはちょっと思うところがあるのだよ」
と言ってくる。
「ところで、例の剣は持ってきたろうな」
と小声で訊いてくるシリオに、
「はい、一応」
とドレスの上から、太ももの辺りを指差すと、シリオはそれを横目に見ながら、
「そんなところに差しておいて、すぐに出せるのか?
逆に王子に取られそうな位置だが」
とよくわからないことを言う。
だがまあ、とちょっと溜息をついたシリオは、
「お前の場合、他に隠すところがないからな」
と性能の良いコルセットにより、かろうじて盛られている胸を見て言ってきた。
情けをかけるのではなかったな、と未悠は思う。
ガンビオのオモチャみたいな飾りの長剣ではなく、この毒つきの短剣で、あのとき、確実に
シリオの後ろ頭を見ながらそんなことを考えつつ、未悠は狭い階段を上がっていく。
「王族の部屋は、みな、この上のエリアなんですか?
莫迦となんとかは高いところに上りたがるって、この国でも言いますか?」
そう途中にある窓から下を見ながら呟くと、
「……包み隠すところが逆だろ」
莫迦って言ってるぞ、とシリオは言う。
「剣を出す前に、まず、不敬の罪で、お前が一刀両断されそうだな……」
と言うシリオに先導され、王子の部屋の前へと向かう。
扉の前に居た兵士がシリオと自分を見、場所を開けた。
シリオが扉をノックする。
「アドルフ王子」
とシリオが呼びかけると、扉が開き、アドルフが現れた。
「シリオか」
と言いながら、アドルフはこちらを見る。
その目を見ながら、やはり心臓に悪い顔だな、と思っていると、シリオが、
「王子、この娘を引き渡す前にお話があります」
と言い出した。
「……では、入れ」
とアドルフは二人を部屋へと招き入れる。
今、室内には、他に誰も居ないようだが。
シリオ様、今、ご自分で殺られたらいいんじゃないですかね? と未悠は横目にシリオを窺ったが、彼はまるきり無視していた。
兵士が扉を閉めたところで、
「王子」
とシリオが呼びかけた。
「此処に未悠を呼ばれたのは何故ですか」
「……カードゲームで負けた金を渡すためだが」
アドルフがそう言い終わらないうちに、ほら、シリオ様っ、と未悠は鬼の首をとったように振り返り、叫んだ。
「私の言った通りじゃないですかっ」
「ほんとですか、王子っ?
じゃあ、今すぐ、未悠に金を渡してください。
このまま連れて帰りますからっ」
負けじとシリオはそう叫び出す。
「いや、それは……」
と言い淀んだ王子に、シリオは未悠に向かい言った。
「ほら、見ろっ。
王子はお前をこのまま返す気などないのだ。
お前は王子の
私の勝ちだ!」
「ちょっと待った!
まだわからないじゃないですかっ。
部屋で二人で、ちょっと一緒に語らおうと思ってるだけかもしれないじゃないですかっ」
ねえ、王子っ、と王子を見るが、答えない。
はっ、とシリオが鼻で笑った。
「莫迦か、お前は。
お前のような美しい女を呼んでおいて、なにもせずに返す男が居るものかっ」
「なに言ってんですかっ。
私のこと美しいだなんて思ってないくせにっ」
「思ってるから声をかけたんだろうがっ。
美しいが変わっているから、王子の好みだな、と思ったんだ!」
アドルフは、なんでそれで俺の好みだ……という顔をしていた。
というか、待て待て待て。
何故、酒を運んでいただけで、変わっているとわかるんだ、と思っている間に、シリオは勝利宣言をしていた。
「私の勝ちだ。
王子っ、未悠に今宵の相手をさせようと思って呼んだんですよねっ?
ほら見ろ。
お前、王子からせしめた勝ち金、私に寄越せよっ」
「なに言ってんですかっ。
王子、まだ一言も発してませんよっ。
ねえ、王子っ!」
と振り返ったが、
「帰れ、お前ら二人とも」
と言うアドルフにシリオごと叩き出されそうになる。
「ああっ。
お待ちください、王子っ」
と慌てて、シリオが叫ぶ。
「未悠だけはっ。
未悠だけはっ、お願いしますっ!
せっかく、此処まで運んで来たんですからっ」
と物のように言い、未悠の身体をアドルフの方に押しつけると、シリオは勝手に扉を閉めた。
「衛兵っ。
鍵をかけろっ」
と無茶を言って、ええっ? と言われている。
閉まった扉を見ながら、アドルフが呟く。
「未悠。
何故、シリオはああまでして、私にお前を押し付けたいのだ?」
さあ、知りません、と未悠は答えた。
まさか、貴方をブスッとやらせようとしてるので、とは言えなかったからだ。
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