お前が一番、イカサマしそうなんだが……
結局、そのまま二人で、男たちが残していったカードでゲームをした。
そのカードを見ながら、アドルフは、
「特にイカサマとかはしてなかったようだな。
まあ、あのメンツの中では、お前が一番イカサマして来そうだかからな」
と失礼なことを言ってくる。
「ところで、お前、ガンビオに襲われかけたそうだな」
「よくご存知ですね」
と未悠が言うと、
「ガンビオがお前の美しさに
と言う。
……なんでそれでおかしいと思うのかが気になりますが、と思っていると、アドルフは淡々とした口調で、
「私の妃になったら、もうおかしな男には襲われないが」
と言ってくる。
「いや、それだと貴方に
と言うと、
「嫌なのか」
持ったカードの上から、こちらを見、アドルフは言ってくる。
「嫌というか。
その顔が嫌なんです」
と言うと、アドルフは、ふっと溜息をもらした。
「どうかしましたか?」
と問うと、アドルフは憂い顔で言ってくる。
「私はこの顔が嫌いなのだよ」
……殴ろうかな、この王子。
社長に似ている、という問題点さえなければ、取り替えて欲しいくらい美しい顔なのに。
そう思いながら、
「何故ですか。
女性はみな、貴方にぽうっとなってますよ」
と言うと、アドルフは未悠を見、
「お前はなっていないようだが」
と言ってくる。
「耐性があるんです、その顔」
と言ったあとで、未悠は言った。
「そんなにその美しいお顔がお嫌いなら、獣の皮でもかぶってらっしゃったらどうですか?」
顔が見えなければ、少しは好きになれるかも、と思いながら、つい、そう言うと、アドルフは、カードを見たまま言ってくる。
「私のこの顔には呪いがかかっているんだよ」
「呪い?」
「私がこの顔に生まれたこと。
それ自体が呪いなのだ」
そうアドルフは言う。
よくわからんな、と思っていると、王子は王子にあるまじき舌打ちをし、
「……お前の勝ちだな」
と言ってカードをテーブルに放った。
まだ終わってはいないのだが、先へ先へと手を読む王子には、もう自分の負けであることがわかったようだった。
アドルフは立ち上がり、
「あとで私の部屋へ金を取りに来い」
と言って、去っていった。
それからは、王子としての役目を果たすためか。
一応、挨拶まわりらしきものをしているようだった。
……しかし、舌打ちとかされると、ますます似て見えるな。
社長のくせに、安い居酒屋で愚痴っていたあの人と、と思いながら、今はそんな素振りも見せずに、威厳ある態度で家臣の者たちに接している王子を眺めていた。
「未悠。
借り物のドレス、汚さなかっただろうな」
華やかなばかりで面白みのない会が終わる頃、エリザベートともに、シリオがやってきた。
「ああ、はい。
ありがとうございました」
と頭を下げたあとで、あ、と未悠はエリザベートを見上げて訊いた。
「そうだ。
すみません。
もしよろしければ、このドレス、もう少しの間だけ、借りていてもいいでしょうか?」
「構わないけど」
どうかしたの? とエリザベートは訊いてくる。
「いえ。
実は、さっき、王子があとで部屋へ来いと言ってきたので――」
と王子が退出した扉の方を振り返りながら言うと、シリオが、は? という顔をした。
「興味なさそうな顔して、手が早いな、王子」
と呟くので、あー、いえいえ、と未悠は手を振る。
「あとで部屋へ金を取りに来い、と言われたんです」
「……今日は一体、なにをしていたのだ、お前は」
今日はシリオは忙しかったらしく、途中からは会場に居なかった。
だから、怪しげなおっさんたちとカードゲームに興じていられたのだ。
「まあ、ともかく、来いと言われたので。
王子の前に、酒場で着ているような簡素な服で出るのは失礼かなと思いまして」
と言うと、エリザベートは、
「では、それを着ていきなさい。
多少汚れても破れても構わないから」
と言ってくる。
「いえ、汚れたり、破れたりする予定はないんですが」
と言いながら、なにかひどい目に遭わされたりするのだろうか、と未悠は不安になる。
神聖な舞踏会の会場で、ギャンブルをするとは何事かとムチで打たれたりするのだろうか、と思いながら、
「では、汚してはいけないので、あのスーツで行きましょうか」
と言うと、エリザベートはちょっと考えるような顔をした。
「……王子はあのような服がお好みかしらね」
「好きみたいですよ」
と言うと、
「いつ見せたんだ?」
とシリオが訊いてくる。
「だから、最初に会ったときですよ。
此処に来たとき」
「それでお前がお好みなのか?
意外や意外に意外だな、あの王子」
と呟くので、
「いえあの、ほんとにギャンブルで勝ったお金取りに行くだけなんですよ」
と弁解してみたのだが、シリオは、
「莫迦か、お前は」
と未悠の主張を鼻で笑う。
「娘が王子の部屋に呼ばれたらそういうことだ。
頑張って王子の
そんな情緒のないことを言ってくる。
「違うと思います」
そう言い返した未悠と、シリオは思わず、睨み合う。
「……じゃあ、賭けるか?」
とシリオが言い出した。
「いいですよ」
と未悠は負けじと胸を張り、
「もうーっ。
なんでもいいから、お行きなさいっ!
王子をお待たせしないでっ」
と二人ともエリザベートに叩き出された。
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