第3話 恋慕

「ゆかりは普段何をしているの?」

奇妙な質問だ。


「わたしは普段、ずっと好きな人のことを考えているの」

場が凍る。兄は動揺を隠せない。ぼくは理解ができない。


「もちろん、好きな人という概念はとても空虚なものであると知っているわ」

そしたらなぜ。


「でもわたしには止められないの。止めたくないとも思っているし。」

流石に狂人の沙汰であると断定できる。


好意という無駄な感情については最早認識されることが少ない。相互に利益を与えるような友情でさえも、認知の対象となることは珍しい。人を好きなるということは、単に自分の影を好きになっているにすぎない。これは生まれて最初に習うことである。倫理の施行においてこれは懇切丁寧に説明される。何故なら唾棄すべき恋愛によって、時間の無駄という、死よりも恐ろしい結果が訪れたとしても、なにもおかしくはないからだ。


「人はあくまで、自分が観測したその人のことしか分からないってのはわかってるよな?」

兄は心配だ。


「でもわたしは、可能な限り観測をしようとしてるの」


「君は恋という、人生において最も無駄なことをしているわけか」

ぼくは非難した。


ゆかりは果てしなく端正な顔を少し歪ませた。

「わたしは、無駄じゃないと思うの」

ゆかりの真っ赤な瞳がほの暗くぼくを捉えて離さない。だからぼくはめがそらせなかった。


「わたしはあなたに普段なにをしているかなんて聞かないわ。」

まだゆかりの瞳には間抜けな顔をしたぼくが映っていた。


「ぼくはずっと観測されていたわけか」


「そうね、わたしはあなたのことをずっと考えているもの」


兄は動揺を隠せない



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ヤンデレが本当に好きなのは俺ですか @Okuse

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