第2話 三つ巴

「ここで言われている、循環論法とはどういうことだと思う?」


「わたしはこの発電方法が良いとされている根拠がこの発電方法の根本であるエントロピーが0の物質を利用することが良いことだというところにあるところにあると思う。」


「少し日本語が変だ。つまりゆかりは発電方法が良いという根拠に、この文脈においては、ほぼ発電方法と同じ意味で使われている新素材の利用があって、それが良いということが置かれていることを循環論法だと考えたわけだ。」


「なるほど、確かに僕もそう思うよ。新素材の利用がなぜ良いのかということが、説明されていないよね。」


「俺も同意だ。」


小川、ゆかり、りょうは三つ巴のアクティブ相互フィードバック形式の学習を行なっていた。通常家族間でのみ、三人以上での絆が発育するが、小川を媒介としてこのアフィーは

成り立っている。小川にとって親友とも言えるりょう、妹たるゆかり、ギリギリ酔狂と呼ばれる程度の効率の悪さだが、この三人は変わったことが好きだ。変わったことが好きということは、余裕がある人間にだけ許されることである。三人は賢く、暇が多い。賢いものは国語がかなり得意だ。三人の学習レベルはかなり高かった。通常、同世代の人間は思考のための予備知識が足りない、つまり国語力不足のため、受動的な学習活動しかできない。だからこそ高校という場所においては黒板と教壇と教師が必要である。しかしこの三人にはすでに文章を正確に読み、文脈を捉え、間違えずに論理構造を把握できるのであった。これは大学入学を非常に簡単なものにしてしまう。


「今日はこれくらいにしようぜ」小川がいった。僕とゆかりはうなずく。


「効率は悪いけどなかなか面白いね。女の子と勉強したのなんて人生初めてで、新鮮だったよ」ぼくは言った。


「わたしも楽しかった。兄としか勉強したことがなかったから」


一緒に学校の授業を受けることは、共に勉強したと言えるものではない。


「あと久しぶりにりょうに会えてうれしいよ」

笑っている。


そしてぼくたち三人は息抜きの学習をはじめた。ぼくはいつものように大好きなカントの純粋理性批判を取り出す。小川はやはり統治二論だった。ゆかりはどうやら理系のようだ。行列の問題らしきものを解いている。足し算が苦手なぼくにはよくわからない。


「やっぱり賢いんだね」ぼくは褒めた


「そんなことないよ」恥ずかしそうに笑った


「わたしはもっとりょうのことしりたい」


唐突で訳がわからないし、時間の無駄が過ぎるが、そういう異常さは好きだ。


「ぼくもゆかりのことしりたいよ」


ぼくは応えた。


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