第3話【Side Shampoo】

 夢の世界の物語は、いつか消えてしまうのが道理だ。

 だからきっと、彼の記憶に私は残らない。

 それでも、私はずっと彼の夢の中に居る。

 それに気付いた時には驚いた。

 初めは普通に生活していた。家に帰ってこない両親の事も、何とも思っていなかった。

 三日経って、世界の形が変わった事に気がついた。偉い人が変わったとか、新しいビルが建ったとかそういう事じゃなくて、何と無く違う世界になっていた。

 多分、それは三日の時間の流れを有する夢の中だったからなのだろう。だから、その三日は凄く短かったように思う。

 そしてその三日のあとに見た夢は、きっと本物だった。

 そう、私の世界が、夢と現実が、入れ替わってしまっているのだ。

 少し前から、家にこもりがちになり、昼夜逆転をしていた私にとって、夢は昼に見るものになってた。

 夜から朝にかけて彼の夢の中にいて、昼になれば現実世界にいる。

 どうしてこうなったのか分からない。

 でも、きっかけは分かる。


 ――もう、何も聞きたく無いと思った。

 街の喧騒も、テレビの音も、コインが落ちる音も、親の喧嘩も。

 私の部屋にまで響く両親の怒鳴り声から逃げたかった。

 だから、耳いっぱいに音楽を詰めた。

 耳の出来るだけ奥の方までイヤホンを差し込んで、好きな曲だけを聴いていたい。

 目を瞑って、別の世界に行きたいと願った。


 あの時には気付かなかった。

 いきなり静かになった空間を、ただただ時間が解決したのだと思っていた。

 きっと私は、あの時目を開けた瞬間から、元いた世界によく似た、彼の夢の世界に居た。

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僕の夢に住む彼女 幻典 尋貴 @Fool_Crab_Club

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